会社が給料を支払ってくれないとき!

弁護士 泉宏明(大阪弁護士会)
弁護士 泉宏明(大阪弁護士会)
2022/12/09

「会社が給料を払ってくれない!どうしよう!」そんな時にみてほしいページです。

仕事していれば給料くらいは何も言わずとも会社に払ってほしいものです。

しかし、世のなかには、仕事をしているのに給与が振り込まれない!渡されない!というケースは残念ながら存在します。

そんな人が、給与を受け取るためにはどうすればいいでしょうか。


給料が支払われないような場合、弁護士が会社に対して法的に請求するかどうか検討する費目は以下の通りです。そして、具体的にそれぞれの項目の金額を算出するためには資料(証拠)が必要なので、資料としてあればいいかなという所も追記します。

① 給料自体が支払われていない場合→未払賃料

・給与明細

・源泉徴収票

・雇用契約書

・労働条件通知書

・給与の振込先の通帳

・就業規則

※これらの資料は②以下でも役に立ちます。

② 残業をしていたのに払われていない場合→残業代

・タイムカード

・どのくらい仕事をしているか分かるデータ(LINEのシフト連絡など)

③ 賃料以外の未払がある場合→付加金

④ 退職した場合→退職金

(解雇された場合、解雇の無効を争うときには解雇されていた期間中の給料を請求することも検討します)

⑤ パワハラセクハラ等の場合→慰謝料、治療費

・パワハラの状況を記録した録音や録画

・診断書(健康に不具合があれば躊躇せず診療内科や精神科を受診してください)

⑥ それぞれの項目が支払期日を過ぎている場合→遅延損害金

各①~⑥の項目が本当に請求できるかは事案によって異なりますが、これらの項目が請求できるかもしれないということは知っておいて損はないと思います。

これらの資料は一般的には働いている時の方が手に入れやすいと考えられます(会社のお金の流れが分かればベストでしょう。)が、上記の資料がなくても諦めないでメモや手帳、記憶などから頑張ってみることをお勧めします。

賃金や残業代は3年、退職金は5年の消滅時効が定められています。つまり、残業代や賃金、退職金は過去分を遡って請求できますが、請求できる期間は限られているということになります。ただ、時間が経って会社の資力が減少する可能性も考えると、給与すら振り込まれない場合には直ちに行動することをお勧めします。

また、弁護士法上、退職代行サービスでは給与、残業代、付加金、退職金の請求などを行うことができません。自分でやってくれと言われます。退職代行サービスを利用する方は会社と直接連絡を取りたくないと思いますから、弁護士に代理をお願いすることが適切と言えます。

なお、残業代などの具体的計算を紛争に耐える程度に行うのはかなり大変であり、網羅的に計算するのであれば弁護士等の助けが必要になると考えます。

2 考えられる手段


何が請求できるか整理し、金額を計算した後には、実際に会社に対して「この金額を払ってください」と請求することになります。考えられる手段は以下の通りです。

(1)相手方に請求書を送る

まずは請求書を送ることが考えられます。請求書は、誰が何の費目でどれだけ請求しているか分かればよいですから、特定の書式があるわけではありません。

消滅時効が目前の場合には配達証明付内容証明郵便の利用が必要になることもあります。

請求書を送って、会社から何か連絡があれば交渉することになるでしょう。

何ら反応がなければ訴訟や労働審判を検討します。

(2)労働基準監督署への申告

給与未払いは労働基準法違反です。職場の近く労働基準監督署(労基、労基署)に労働基準法違反を「申告」することも考えられる手段の一つです。ただ、労働基準監督署は職場の違法行為を是正するための組織ですから、未払賃料の支払を代わりにやってくれるわけではありませんので、交渉自体はご自身で行うことになります。

(3)支払督促、少額訴訟

支払督促や少額訴訟についてはこちらの記事(「少額訴訟ってなに? 60万円以下のお金のトラブルに限って利用できる裁判制度があるって聞いたけど・・・ 」「支払督促とは?手続き等について解説します」)をご覧ください。

どちらもありうる手段ではあるのですが、労働紛争は一般的に紛糾するので、支払督促であれば異議を出されて訴訟に移行するでしょうし、少額訴訟では通常訴訟に回付される可能性が高いとは考えます。

(4)民事調停

まだ会社側と話し合いができる場合には、簡易裁判所に調停を申し立てることが考えられます。

民事調停は、裁判所において、調停委員が双方の意見を聞き、合意に至るために調整する手続です。月1度程度、裁判手続(期日)が開かれます。本人若しくは代理人が裁判所に出頭します。

調停は裁判所での話し合いの場ですから、双方が合意に至らなければ「不調停」として終了しますが、裁判所での話し合いが行われる契機になります。

(5)ODR(オンライン調停手続)

民事調停は裁判所の手続きであり、手続きに一定程度の時間がかかり、一般の方には少し荷が重い制度でもあります。

現在はオンラインで民事調停と同様の話し合いの窓口になってくれる機関があります。

裁判所外での紛争調停手続をADRといい、オンラインの調停手続は特にODRと呼ばれます。

ODRでは裁判所での手続きよりも簡易になるようにシステム構築されていたりします。民間に多数の手続機関がありますので、紛争に即した機関を選んで申立てをすることが考えられます。

特に金銭債権のODRを進めている機関として株式会社AtoJが運営するOne Negotiation(ワンネゴ)が挙げられます。

(6)労働審判

裁判所での手続です。

原則として弁護士が代理人とならなければなりません。

原則として3回の期日(裁判所での手続)以内に結審がなされます(労働審判法15条2項)。

和解に至るか、もしくは裁判所の決定として審判が下されます。調停と大きな違いは裁判所が結論を決めてくれることです。

訴訟よりも短期間の紛争解決を望む場合にこの手続を選択しますが、弁護士としては、金銭解決を望む場合には労働審判を選択するケースが多く、解雇の無効を争う様な場合等の長期化が容易に予想されるケースでは3回では終わらないので訴訟提起を考えます。

(7)訴訟

裁判所での手続です。

必要不可欠ではありませんが弁護士を代理人とすることが多いでしょうし、ご本人で訴訟を行うことは一般的に非常にハードルが高いといえます。弁護士に依頼するケースが多いでしょう。

和解に至る場合も多々ありますが、和解交渉が決裂した場合には、最終的には裁判所が判決を出してくれます。

3 どの手続きを選ぶべきか


さて、手続は上記の通り色々と考えられるところですが、どの手続を選ぶべきかが問題になります。

まず、未払賃料だけを請求する場合、請求書を送って交渉する場合などは給与を払ってほしい人がご自身で行うことも可能かもしれません。

一方、残業代も請求したい場合や、パワハラやセクハラの対応もしたいという場合、会社と直接連絡を取りたくない希望が強い場合などには、弁護士を代理人として立てるか、調停、ODR、労働審判、訴訟等を検討することになります。

また、一つの考慮要素として会社側がどのような状況であるかによっても検討しましょう。

(1)会社が事業を継続している場合

請求書を送付して任意の交渉を行うことも考えられます。

当事者同士の交渉では紛糾することを考えると、ORD,調停等の手続が考えられます。会社とこちらの意見の折り合いがつきそうもないときには労働審判や訴訟を提起することが考えられます。

(2)会社の資金繰りが悪く、代表者や窓口に連絡がつかない場合

未払給与の場合には、会社自体の経営状態が破産に近いという場合もあります。破産手続の準備に入れば、破産手続きの代理人弁護士の指導によって離職票なども支給されるでしょうが、皆様としてはすぐさま次の仕事を見つけるべきでしょう。

破産した場合に、一定額の未払給与については「未払賃金立替払制度」という制度があり、事後的にはある程度の救済がなされる場合もありますが、この制度が実施されるまでには破産手続等が開始しなければなりませんし、その後も立替払制度の申込と処理に時間は要するでしょう。

このような場合、裁判所の一方的な決定で内容を決めてもらう手続である訴訟が相当ですが、訴訟準備の間に破産手続が進行すれば無駄骨になりますから、慎重な検討が必要になります。

勿論、会社側の状況は一考慮要素ですので、請求金額等も考慮して手続を選んで頂くことが良いと考えます。

4 ODR(オンライン調停手続)が適切な場合


会社が事業を継続している場合、で、残業代などは求めず未払い賃料と遅延損害金だけを求めるようなケースでは、ODRは適切な選択肢の一つといえるでしょう。

一方、労働者であるかが争われる場合、解雇されて解雇無効を争う場合、パワハラ等が関与する場合には労働審判や訴訟を利用することが考えられます。

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弁護士 泉宏明(大阪弁護士会)
親和法律事務所大阪事務所にて現在執務中。債権回収・不動産法務・契約法務等をメインの業務とする。