支払督促とは?手続き等について解説します

弁護士 垂水祐喜(大阪弁護士会)
弁護士 垂水祐喜(大阪弁護士会)
2022/12/08

1 支払督促ってなに?

皆さん、支払督促という言葉を聞いたことがあるかもしれません。

「お金を貸した人が返済期限までに払ってくれない」といった場合、お金を回収する手段の一つとして支払督促を利用することが考えられます。

支払督促とは、金銭,有価証券,その他の代替物の給付に係る請求について,債権者の申立てにより,その主張から請求に理由があると認められる場合に,支払督促を発する手続のことをいいます。

つまり、支払督促を裁判所に申し立てて、債務者(上の例でいうと、お金を借りた人)が何も争ってこない場合には、直ちに強制執行を申し立てて、債権を回収することができるようになります。

2 支払督促を利用するのに向くケース

支払督促を利用するのに向いているのは、債権が存在していることを客観的に示す資料が存在しており、債務者がそれについて特に争ってこないと想定されるケースだといえます。

後でも説明しますが、支払督促は相手方の住所地を管轄する簡易裁判所に申し立てる必要があります。そして、相手方が異議を申し立てると民事訴訟に移行し、相手方の住所地を管轄する裁判所に出廷する必要がでてきます。

支払督促が簡易迅速に債権回収を図ることが出来る手段であることを考えますと、相手方が積極的に争ってくる可能性があるケースに支払督促を利用してしまうと、支払督促のメリットを享受できないばかりか、かえって通常の裁判より時間も費用もかかることになってしまうことになりかねません。

支払督促を利用すべきケースがどうかを適切に見極める必要があるといえます。

3 支払督促のメリット

支払督促のメリットは主に以下のとおりです。

① 簡易迅速に債権回収を図ることができる。

支払督促のメリットは、これに尽きるといっても過言ではありません。

まず、債権者が裁判所に申立てし、申立ての内容が認められると、裁判所が債務者に対して支払督促を送達します。支払督促を受けた債務者が何も行動を起こさずに受領後2週間経過した場合、支払督促の申立人は「仮執行宣言の申立て」をすることができます。

仮執行宣言の申立てを受けた裁判所は、債務者に対して「仮執行宣言付支払督促」を送達し、それでも債務者が受領後2週間以上異議を申し立てない場合、債権者は強制執行の申立てをすることができます。

一方で、例えば、差押え等の強制執行を申し立てるためには、通常、裁判の確定判決や和解調書、調停調書、執行認諾文言付公正証書など(こういった書類を「債務名義」と言いますが、仮執行宣言付支払督促も債務名義の一種です。)が必要になります。

通常の裁判は判決までおよそ半年から1年(長いと数年かかる場合もあります)もかかりますし、上記の各種調書や公正証書を得るには相手方の協力が必要です。しかし、支払督促を利用すれば、裁判や相手の協力を必要とせずに債務名義を獲得して、強制執行に移ることが可能です。

このように、短期間で簡易に債務名義を得られる支払督促は債権者にとって有用な手続きと言えます。実際、令和元年度においては、簡易裁判所にて新規で受理された件数のうち、およそ30%が支払督促であって、少額な紛争においては支払督促も相当数利用されていることが分かります。

② 裁判所に行かなくても申立てが可能

支払督促は、簡易裁判所の書記官による書面審査がされますが、書類だけのやり取りであり、裁判所に行かなくても手続きが可能です。最近では、オンラインでも支払督促を申し立てることができるようになっており、遠隔地の債務者に対する申立てであっても簡便に手続きを完了させることが可能です

③ 時効の完成を止めることができる

支払督促の申立てをすると、消滅時効の進行がストップし、支払督促が確定した場合、消滅時効のカウントが一から数え直しとなります。

時効の進行が止まることを「時効の完成猶予」と言い、時効が数え直しになることを「時効の更新」と言います(令和2年4月に現行法が施行される以前では、それぞれ「時効の停止」「時効の中断」と呼びます)。

このように、支払督促を申し立てることで時効の進行を止めることができるのも、時効のメリットの一つだといえます。

4 支払督促のデメリット

ただ、一方で、支払督促にもデメリットがあります。

既に上でも述べましたが、支払督促は相手方の住所地を管轄する簡易裁判所に申し立てる必要がありますが、相手方が異議を申し立てると民事訴訟に移行し、訴額に応じて相手方の住所地を管轄する簡易裁判所か地方裁判所に係属することになります。

つまり、債務者が遠隔地に居住している場合に、支払督促が申し立てられると、申立人は遠隔地の簡易裁判所または地方裁判所まで出向いていかないといけなくなり、通常の訴訟を提起するよりもかえって時間や費用が掛かってしまう可能性があります。

5 まとめ

これまで見てきたように、支払督促も一長一短であり、事案を適切に見極めて申立てを行う必要があることが分かります。

また、支払督促を申し立て、債務名義を獲得できたとしても、別途強制執行を申し立てる必要があり、強制執行ができるとしても、相手がどんな財産を持っているか分からない、実際に回収まで至れるのかは分からないという避けがたい問題があることも事実です。

一方で、実は、少額であればある程、話し合いによって回収という解決に至る可能性は高まると言われています。もちろん全額の支払いが受けられるかは分かりませんし、もしかしたら結局支払いが受けられないということだってあるでしょうが、話し合いによる解決を目指す、オンライン調停(ODR)という新しい選択肢が世の中には登場しています。

欧米圏を中心に世界的な広がりを見せているサービスで、仲裁人や調停委員といった話し合いをサポートしてくれるプロフェッショナルが第三者として間に入り、当事者同士で話し合いによる解決を図ることを目指すものです。

支払督促も一つの手段ですが、法的な手段に出る一歩前に、気軽に使えるオンライン調停という手段があることも、是非皆さん知っておいて下さい。

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弁護士 垂水祐喜(大阪弁護士会)
上場企業のメーカー法務部の勤務を経て、現在、中之島中央法律事務所にて執務中。使用者側の労働事件・契約法務をはじめとした企業法務をメインの業務とする。