少額の未回収債権が定期的に発生します。どう管理するのがよいでしょうか

弁護士 泉宏明(大阪弁護士会)
弁護士 泉宏明(大阪弁護士会)
2022/12/09

1 対処の必要性

発生した少額の未集金債権が多数に及ぶと、銀行の融資が受けにくくなったり、上場を見据えた企業では上場の障害になったります。また、実際にお金が入ってこないことになりますから資金繰りに影響しかねません。

このような事態を防ぐため、日頃から、少額債権の管理が必要になります。

 

貸倒損失として損失計上するにあたっても、「安易な貸倒処理」として税務署からの指摘を受けないように適宜対策を取る必要があります。

 

さて、そこで具体的に何をすればいいのかが問題になります。

 

2 手段の一覧

⑴裁判所、第三者機関を使わない方法

郵便、電話などで支払を求めることが第一に行うべきことです。

一般的に、電話や郵便が効力を有するのは支払期日付近だけであり、1年2年も経てば、相手方も「何もしてこないだろう」と思ってしまいます。

したがって、早急且つ頻回の回収作業が必要になります。ただ、担当者の心理的負担や消滅時効の問題も考慮すると、一定期間で区切って(2)以下の処理を検討するべきと考えます。

 

⑵相殺による処理

相殺とは、こちらが持っている「返さなければいけないお金」と、相手方から「もらわなければならないお金」を差し引き計算してなしにする(まさに相殺する)ことです。

どちらも金銭債権として弁済期が到来していて相殺が可能である他、相殺通知が相手方に届くことが必要になりますが、他の手段と比較して非常に簡便でしょう。

相殺をするには、こちらが「返さなければいけないお金」を預かっていることが前提となります。少額の未収金債権の発生が多いという取引では、予めデポジットを預かり、相殺できる状況を作っておくことが必要です。

ただし、デポジットを受け取ることはサービスの利便性と相反しますから、このような手段が取れるのは力関係が会社側に高い場合に限定されます。

 

⑶サービサーへの売却(ファクタリング)

債権管理回収業に関する特別措置法(サービサー法)に基づき、一定の債権についてはサービサー(債権回収会社)に債権を売却してしまうとも選択肢の一つです。

ただし、回収が困難な債権を売却することになりますので売却価格は非常に低廉です。回収コストとのバランスをご考慮いただいて利用を検討いただく手段でしょう。

 

サービサーとして日本に登録されている企業については下記一覧をご覧ください。

会員会社一覧 | 全国サービサー協会について | 一般社団法人 全国サービサー協会 (servicer.or.jp)

 

⑷裁判所を利用した債権回収

裁判所を利用した債権回収手続としては、訴訟の他、支払督促、民事調停等が考えられます。

裁判所に提出する費用として印紙代、郵便切手代があります。印紙代はこちらをご覧ください。

 

郵便切手代は各裁判所によって異なりますので、各裁判所のHPをご確認の上、不明の場合には民事訟廷係にご連絡ください。

 

印紙代だけを見れば、訴訟よりも支払督促や民事調停の方が、印紙代が安いから良いのではないかとお考えになるかと思います。

ただ、支払督促は、相手方に確実に督促状が届くことが必要になりますし、相手方が内容に少しでも不満があれば異議申出がなされますので、結局、訴訟になります。民事調停は相手方と合意が取れることが必要になります。

相手方の意思に拠らず、一方的に支払ってくださいという命令がでるのは基本的に訴訟手続のみです。

 

また、裁判の結果、「~~は~~に~~を支払なさい」という命令(判決)が出たとしても、相手が任意に払わなければ判決を実際に換金するには強制執行という手続が必要になります。

 

強制執行は、相手方の①預金債権などへの債権執行②自動車や家財の動産執行③不動産執行が考えられます。

③不動産執行は裁判所に(少なくとも数十万円単位の)予納金を積む必要がありますし、②動産執行は差し押さえができる財産がかなり限定されるので、①債権執行をまずは考えるべきでしょう。

そのためには相手方の預貯金やそのほかの財産を把握しておく必要があります。弁護士に依頼して弁護士会照会(23条照会)を行ったうえで預貯金を調査することも考えられます。

 

⑸裁判所外の紛争解決手段

裁判所以外で行われる紛争解決手段としてADR(裁判外紛争解決手続)があります。民事調停はあくまで裁判所における手続ですから、相手方の真摯な対応を求めるために裁判所を利用する必要がある場合には民事調停手続きを利用するべきでしょうが、そこまでいかずとも話し合い自体は成立しそうという場合には、ADRを検討することも一考です。

ADRは民間機関によって行われます。各機関の特徴によって紛争範囲が異なりますので、こちらを参照してください。

 

主要都市の弁護士会館にはADR窓口があります。

 

ただし、ADRは当事者が窓口に出廷することが不可欠となります。

当事者同士が希望するのであれば、すべてをオンラインで済ませることができないかという需要は当然にありますし、そのような制度もあります。

ODR(オンライン紛争解決手続)はオンラインで紛争解決のサポートをすることを目的とした制度です。

株式会社AtoJが運営するOne Negotiation(ワンネゴ)は金銭債権の紛争に特化したODRサービスです。

申立てから争点整理まではシステムで管理するので無料となっており、オンライン調停が始まってから、もしくは双方の合意成立時に費用が発生するので、少額の未回収債権の回収の一助になると考えられます。

 

3 費用と回収手段の選択

少額の未回収債権が定期的に発生する場合、企業として

①回収の必要性

②人員コスト

③回収のための時間的金銭コスト

④相手方の属性(資力)

の4つを総合考慮することが考えられます。

 

・相殺による処理はもっとも簡便な債権回収方法ですが、事前の備えがなければできません。

・任意交渉は、②人員コストを考慮して行うべきでしょう。

・サービサーへの売却(ファクタリング)は、そもそもサービサーへの売却が可能な債権であるかが問題になります。また、回収費用がかなり低廉になるので、①低額でも回収の必要性が高い②人員コストが割けない場合に検討するべき手段でしょう。

 

第三者機関を利用する場合には第三者機関へのコストを考慮しなければなりません。また、②対応人員コストは変わらず問題になります。

裁判所を利用した債権回収、裁判所外の紛争解決手段を比較した場合、相手方が任意交渉にすら対応しない場合には訴訟を提起し、交渉には対応するけれども、第三者が必要な場合には、裁判所外の紛争解決手段を検討することになるでしょう。

 

4 回収後の会計処理

上記の種々の手段を講じて、回収ができれば売上等として経理処理することになります。一方、判決まで獲得したが支払がない場合には、相手方の財産状況を見て財産開示手続等までも行う必要があるか、明らかに財産がない事から会計処理をしてしまうかといった処理は、会社の経理担当の方とご相談いただくほか、会社の税理士や公認会計士の先生にお尋ねいただくべきと考えます。

参考:国税庁通知

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5320.htm

Author Profile

弁護士 泉宏明(大阪弁護士会)
親和法律事務所大阪事務所にて現在執務中。債権回収・不動産法務・契約法務等をメインの業務とする。