未回収債権を放置すると、どうなりますか?会計と法務の両面から教えてください

弁護士 泉宏明(大阪弁護士会)
弁護士 泉宏明(大阪弁護士会)
2022/12/09

未回収債権は現金化する必要がありますが、回収が奏功しない場合にどのように処理されるかは意外と知られていないかもしれません。

今回は法務、会計の観点から未回収債権を放置するとどうなるのかを解説します。

 

1 法務の観点から

法務の観点からは、一度発生した債権は、消滅する原因が生じるまで変化しません。ただ、支払いを遅滞した時から債務者には遅延損害金が発生しますし、債権者には遅延利息が発生します。

債権は請求できることを知った時から5年を経過すれば消滅時効が成立します(民法166条1項1号)。令和2年4月1日施行の民法改正前は商事債権については5年(旧商法522条)、民事債権については10年(旧民法167条)の期間経過により消滅時効が成立し、一律ではありませんでしたが、令和2年の民法等の改正によって民事商事ともに消滅時効が「請求できることを知った時から」5年と統一されました。

改正前後の債権については注意が必要ですが、基本的に現在は発生してから5年を経過した時に消滅時効が成立するとお考え下さい。

なお、照明時効の期間経過の開始は「請求できることを知った時から」とされていますが、法的には債権の発生については実際に知っているかどうかに関わらず知っているものとして処理されます。

 

消滅時効は相手方が主張して初めて効力が生じる「抗弁」とされています。したがって、5年が経過した債権を請求すること自体は違法ではありません。

いかがなものかと思いますが、時効が完成した債権を請求する例も巷間には散見されます。

ただ、消滅時効が成立した債権は時効を主張されれば法的に請求できなくなることが確実ですので、実際には5年を経過した債権は消滅時効が成立したものとして内部的に処理している例が多数となっています。

 

時効が完成した債務は債権として存在はするものの法的な請求をされない自然債務として扱われます。この場合、債務者からの任意の支払いは有効ですが、実際には消滅時効を主張されることが多いでしょうから、通常は会計上の損金処理をして対処することになります。

 

2 会計の観点から

会計の観点からは、未回収債権は、売掛金、未収金などとして計上されます。

これらは仕訳上、資産として計上されます。実際には現金が入っていないにもかかわらず会計上も利益として計上されてしまいます。

名目上の利益が上がればそれだけ税額が上昇しますので、未回収債権は税務上損金処理できるかが問題になります。

 

国税庁は安易な損金処理を防ぐため、損金処理についてタックスアンサーを出しています。

これによると、貸倒損失として処理できる債権は

①金銭債権が切り捨てられた場合

②金銭債権の全額が回収不能となった場合

③一定期間取引停止後弁済がない場合等

となっています。

 

実際にどのタイミングで何をして損金処理を行うかについては会計士、税理士の方とご相談いただくことが必要ですが、一応の参考になればと思います。

 

3 オンライン調停のすすめ

このように、法務上は、未回収債権は5年以内に対応をするべきことになります。

ただし、未回収の状態が継続すると、債務者の所在が不明となったり、債務者の資力が減少したりする可能性が高まります。

したがって、法務上は早期に何らかの手段を講じることが望まれます。

 

また、会計上も、金銭債権の全額が回収不能という状態を税務署に明らかにするために、何らかの手段を講じる必要があります。

対策としては、まず訴訟を提起することが考えられますが、弁護士費用や裁判所への手続費用のため躊躇する事例も見られます。とはいえ、請求書を送付して電話を送るだけで良いのかということも考えなければなりません。

 

消滅時効の完成が近い事例や強制的に回収するべき案件については訴訟や仮差押えといった強硬な手段を用いるべきですが、すべての債権について訴訟や仮差押といった手段を使うことが適切とは言えません。債務者によっては、話し合いによる回収が可能な債権も存在すると考えられます。

 

話し合いが可能であると見込まれる場合には、簡易裁判所に調停を申し立てることが考えられます。調停では裁判所が結論出してくれるわけではありません。また、調停はあくまで話し合いの場です。しかし、裁判所が第三者的に仲介することで相手方の対応が変わることも考えられます。

 

ただ、裁判所の調停は、相手方住所地を管轄する簡易裁判所に申し立てることが制度上定められており(民事調停法3条1項)、調停手続も月に一度程度の開催となります。

 

民間では、より柔軟性を高めたADR(裁判外紛争解決手続)やODR(オンライン紛争解決手続)が認められています。これらは、裁判所での調停よりも、より柔軟かつ手続負担の少ない制度設計を目指したものです。

特にオンライン調停は、当事者が裁判所や一定の期間に出頭する必要がなく、オンラインで手続が完結するように設計されています。

今までは特段の対処をせずに損金処理をしていたような場合でも、まずはオンライン調停を行ってみるというのはいかがでしょうか。

オンライン調停には金銭債権に特化したワンネゴが提供されていますので、ご利用を検討されてみてはいかがでしょうか。

なお、ご利用にあたっては、費用面の比較の他、弁護士等の専門職が設計に関わっているものをお勧めします。

Author Profile

弁護士 泉宏明(大阪弁護士会)
親和法律事務所大阪事務所にて現在執務中。債権回収・不動産法務・契約法務等をメインの業務とする。