フリーランスの取引に関する新しい法律ができたと聞きました、どんな法律ですか??

弁護士 垂水祐喜(大阪弁護士会)
弁護士 垂水祐喜(大阪弁護士会)
2024/02/04

 令和5年2月24日に「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(フリーランス・事業者間取引適正化等法)(令和5年度法律第25号。)が国会に提出され、4月28日に可決成立し、5月12日に公布されました。
 この法律は、公布の日から起算して1年6か月を超えない範囲内において政令で定める日に施行することとされており、個人で働くフリーランスに業務委託を行う発注事業者に対し、業務委託をした際の取引条件の明示や給付を受領した日から原則60日以内での報酬支払、ハラスメント対策のための体制整備等が義務付けられることとなります。

 本コラムでは、今回成立したフリーランス・事業者間取引適正化等法について解説していきます。

1 成立の経緯


 近年、働き方の多様化が進展し、フリーランスという働き方が一般的に普及してきました。そこで、社会としても、フリーランスを含む多様な働き方を、それぞれのニーズに応じて柔軟に選択できる環境を整備することが重要となってきています。

 ただ、一方で、令和2年5月の「フリーランス実態調査結果」(内閣官房日本経済再生総合事務局)では、フリーランスのおよそ4割が「発注の時点で、報酬や業務の内容などが明示されなかった」というトラブルを経験し、およそ3割が「報酬の支払いが遅れた・期日に支払われなかった」というトラブルを経験したという調査結果が発表されるなど、フリーランスが取引先との間で様々なトラブルを経験している実態も明らかになりました。
 フリーランス・トラブル110番では、報酬の支払いに関する相談が多く寄せられているほか、ハラスメントなど就業環境に関する相談も寄せられているようです。

 この問題の背景には、フリーランスは一人の個人として業務委託を受ける一方で、発注者は組織として発注を行うという構造上、その間に交渉力や情報収集力の格差が生じやすいという分析がされています(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法)説明資料参照)。


 同説明資料によれば、例えば、①従業員がいないフリーランスは時間等の制約から事業規模が小さく特定の発注者に依存することとなりやすく、②発注者の指定に沿った業務の完了まで報酬が支払われないことが多い、といった事情があり、発注者が報酬額等の取引条件を主導的立場で決定しやすくなる等の形で現れ得るとされ、「個人」たるフリーランスは「組織」たる発注者から業務委託を受ける場合において、取引上、弱い立場に置かれやすい特性があるとされております。

 本法は、そういった「個人」と「組織」の取引における交渉力や情報収集力の格差や、それに伴うフリーランスの取引上の弱い立場に着目し、発注者とフリーランス間の取引に最低限の規律を設けることによって、フリーランスの取引を適正化し、就業環境の整備を図ることがその目的とされています。

2 規制の対象


 本法は、業務委託事業者と特定受託事業者との間の「業務委託」に係る取引に適用されます。

 この特定受託事業者とは、業務委託の相手方である事業者であって従業員を使用しないものをいうとされており(法2条1項)、簡単にいえば従業員を使用しないフリーランスを指していることになります。なお、この従業員には、短時間・短期間等の一時的に雇用される者は含まれません。具体的には、「週所定労働20時間以上かつ31日以上の雇用が見込まれる者」が従業員とされます。

 また、「業務委託」とは、事業者がその事業のために他の事業者に物品の製造、情報成果物の作成又は役務の提供を委託することをいいますが、結局のところ、本法は、事業者間(BtoB)における委託取引を対象とするものです。

 そのため、例えば、フリーランスのカメラマンが一般の消費者から委託を受けて写真撮影をすることや、フリーランスのカメラマンが企業と労働契約を結んでその業務の一環として写真を撮影する場合には本法は適用されません。

3 規制の内容


 本法の規制の概要としては、

①個人であるフリーランスと組織たる発注者の間で交渉力・情報収集力の格差があり、「個人」たるフリーランスが取引上の弱い立場にあることを踏まえ、発注者に対して期日における報酬支払、募集情報の的確表示、ハラスメント対策の義務を課す。
② 加えて、継続的に発注する場合は、発注者への依存が高まりやすいことや取引継続の期待形成が生じること等から、受領拒否等の禁止行為、育児介護等の配慮、中途解除等の予告に関する規制を設ける。
③ 組織対個人の関係になくとも、取引条件の明示は当事者の認識の相違を減らしてトラブルの未然防止に資し、発注者と受注者双方に利益があることから、個人に業務委託をする者は、従業員の有無を問わず、業務委託事業者として書面交付に関する規制を設ける。

ということになります。

 細かい規制内容については、次のコラムでご紹介いたしますが、上記のように、フリーランスと発注者の取引にかなり踏み込んで規制を行っていることがわかると思います。

4 ワンネゴの活用


 いかがでしたでしょうか?

 このように、フリーランス・事業者間取引適正化等法は、フリーランスと発注者間の取引にかなり踏み込んだ規制を行う法律であり、今後同法が施行されることによってフリーランスの取引が適正化されていくことが期待されています。

 とはいえ、現時点(令和6年2月時点)では本法はまだ施行されておらず、本法が施行されたとしても、直ちに報酬の未払いなどの問題がなくなるわけではないと思われます。

 実際、フリーランスの報酬の未払いが発生したとしても、その報酬額と訴訟費用等のコストとの比較からすれば、訴訟提起を断念せざるを得ない場合も考えられます。

 その際には、是非ワンネゴの利用を検討してみてください。ワンネゴは、株式会社AtoJが運営する、法務省から認証を受けた民間ADR機関で、現役の弁護士が監修・運営している、オンラインでのADR(ODR)です。

 ワンネゴは、無料で申立てを行うことが可能ですので、フリーランスの報酬の未払いが発生した場合の回収を行う方法の一つとして有力な選択肢になってくるものと思います。

 フリーランスで報酬の未払いに悩まれている方は、是非一度利用をご検討ください。

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Author Profile

弁護士 垂水祐喜(大阪弁護士会)
上場企業のメーカー法務部の勤務を経て、現在、中之島中央法律事務所にて執務中。使用者側の労働事件・契約法務をはじめとした企業法務をメインの業務とする。