「無い袖は振れない」ので、訴訟に負けても大丈夫?

弁護士 泉宏明(大阪弁護士会)
弁護士 泉宏明(大阪弁護士会)
2023/06/06

  今回は債務者の立場から、財産がない場合に訴訟が提起された場合、どのように対処するべきかということについて記します。

財産がない者への債権の回収


金銭債権とは、債権者が債務者に対して一定額の金銭の支払いを求めることができる権利です。

ただ、債権者の視点からみれば、金銭債権をお金にするためには、債務者からの任意の支払いがされるか、強制執行によって財産を差し押さえたりする必要があります。

債権者としては、債務者が任意に支払いをしない場合に、債務者が持っている不動産に対して強制執行をかけることや、債務者が持っている債権(給与債権など)に対して強制執行をすることが考えられますが、全く財産がないという場合には、強制執行を申し立てても空振りに終わってしまうこともあります。

このような状況を指してよく「ない袖は振れない」と言われます。

そうすると、債務者の側からすれば、「ない袖は振れない」という状態なのであれば強制執行等を申したてられても何も怖いことはないということになりそうです。

ただ、本当にそうなのでしょうか?以下では、「ない袖は振れない」という状態を放置していても問題ないのかという点について解説していきます。

強制執行等の威嚇


まず、強制執行は、預金や不動産に対してのみおこなう必要はありません。債権者は動産執行を申し立てることもできます。

動産執行とは、簡単に言えば、自宅に執行官(裁判所の職員)が踏み入って財産を取り上げられるという手続きになります。ある日突然裁判所の職員が自宅に踏み込んで強制的に財産を取り上げられるということを想像してみて頂ければ、とても恐ろしい手続きだと感じられると思います。

また、債権者の方から破産手続を申し立てられる可能性もあります。実際に債権者から破産が申し立てられることは少ないですが、それは予納金などの関係でやらない債権者が多いというだけで、法的には可能です。

破産手続が始まってしまえば、破産管財人という裁判所から選ばれた弁護士によって財産が管理され、債務者はその指示に従わなければなりませんから、仮に財産を隠していてもすぐにばれてしまいますし、債務者自身としてもかなりの負担が生じることになります。また、債務者が持っている資格に制限が生じてしまうこともあります。

このように、金銭債権を負担している場合に、財産がないからと言って何もしないで放置しておくと、最悪の場合にはいきなり破産させられるという憂き目に遭う可能性もあるということは知っておくべきでしょう。

保証人への請求


また、債務者に保証人が存在する場合、債権者は、債務者からの支払いがなければ、保証人に対してお金を払ってくれと請求することができます。

保証人が債権者にお金を支払った後、保証人は債権者に対して支払ったお金を債務者に対して請求することができます。これは「求償権」と呼ばれています。

保証人が支払う場合、債務者の財産がなく、今後、債務者の財産が増える可能性もないことが多いので、実際には求償されること稀です。

しかし、法律の原則としては、保証人が支払った後でも、最終的には債務者がその債務を履行しなければならないことに変わりはありません。実際、保証人となってくれる方は、債務者の身内であることも多く、保証人との間で再びお金のトラブルが発生することを避けたいと思われる方も多いと思います。

適切な対応の必要


全額を一括で払えない債務を負っているという方は多くいらっしゃいます。住宅ローンを組んでいれば一括で払うことは通常できませんし、奨学金などを負っている人も多いでしょう。

しかし、通常は、分割払いの合意を結んでおり、適切に分割払いが返済されていれば一括で支払うことは求められません。

ただ、債務者のなかには、お金がないからと言って金銭債務を放置している人もいます。上に述べたように、何もしないで放置しておくと、いきなり破産という憂き目に遭う可能性などがあるということは知っておくべきです。

人間は、生活していくうえで、多くの債権と債務に囲まれています。破産ということになればそれらの関係が一時的にストップしてしまい、日常生活に支障をきたします。強制執行を申し立てられた時点で、通常の債務者にとっては日常生活には大きなストレスになると思います。

債務を放置している場合などには、返済の目途を債権者に示して分割払いの合意を得て払っていくなど、債権者に対してきちんと対応することが日常生活を送っていくうえで必要なことです。

なお、債権者が債権の回収を放置している場合には、消滅時効の完成を待つということも債務者が取る作戦の一つとしては挙げられます。弁護士がこのようなアドバイスをする場合もあります。ただ、債権者が積極的に法的手続を行っている場合には放置するという作戦は使えませんし、放置している間にも遅延損害金は膨らんでいきます。

では、どうすれば、そのような状況を防げるのかということですが、

最も重要なのは、お金がないからといって債務を放置することはせず、自分の支払いができる範囲で返済をしていくことを債権者ときちんと合意するということです。

合意に従って支払っている限りは、強制執行や破産が申し立てられることはありません。

誠意をもって債権者と話合いを行うことが大事です。

ただ、実際には、債権者と話合いを行うことが心理的にハードルが高いと思われる方もいると思います。

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弁護士 泉宏明(大阪弁護士会)
親和法律事務所大阪事務所にて現在執務中。債権回収・不動産法務・契約法務等をメインの業務とする。