1 時効とは
時効とは、真実の権利状態と異なった事実状態が永続した場合、その事実状態をそのまま権利状態と認めて、これに適応するように権利の得喪を生じさせる制度のことをいいます。
簡単な例を挙げると、AさんがBさんに対して、債権を持っていながら長くこれを行使しなかった場合には、Aさんが持っている債権はその効力を失うことになります。
時効には、取得時効と消滅時効という二つの制度がありますが、このコラムでは特に消滅時効について説明していこうと思います。
2 消滅時効について
消滅時効は、上に挙げた例でもあるように、時効期間が経過したことによって、対象となった権利が消滅する制度のことをいいます。
消滅時効が成立するためには、
① 権利を行使できる状態になったこと
② その状態になった時から時効期間が経過したこと
③ 消滅時効を援用すること
これら3つの要件を満たすことが必要となります。
3 消滅時効の起算点
民法166条では、債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき(同条1項1号)、または権利を行使することができる時から10年間行使しないとき(同条1項2号)に消滅時効が成立するとされています。
この「権利を行使することができる」とは、権利を行使するのに法律上の原因がなくなった時とされています(例えば、返済期日が定められている場合、返済期日が来てはじめて返済を要求することができるようになるため、返済期日から消滅時効が進行します。)。
一方で、債権者に一身上の都合で権利行使できないときや権利行使に事実上の障害があるにすぎないときは、消滅時効の進行に影響しないと解釈されることが一般的です。
4 消滅時効の期間
改正民法(令和2年4月1日施行)によって、従来の商事消滅時効(5年間)や職業別の短期消滅時効の制度は廃止されることになりました。
現在では、上に述べたように、消滅時効は、原則、
① 債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間
② 権利を行使することができる時から10年間
が消滅時効期間とされています。
ただ、例外も認められており、例えば、人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効については、権利を行使することができる時から20年間(ただし、①の主観的起算点からは5年間に変わりはない)とされていたり、確定判決(確定判決と同一の効力を有するものも同じ)によって確定した権利については10年間とされていたりします。
このように、自分が、債務者に対して有している債権がどういった性質のものであるかをきちんと確認して、消滅時効期間を計算することが肝要であることが分かります。
5 時効の援用
そして、意外と見落としがちなのが、消滅時効はただ消滅時効期間が経過すればいいというものではありません。
債務者は、消滅時効を援用する必要があります。援用とは、時効の利益を受けようとする観念の意思表示とされていますが、簡単にいえば「消滅時効を利用する」ということを債務者が債権者に伝える必要があるということです。
援用には、特別な手続きが定められているわけではないので、口頭での援用することは可能です。ただ、後日援用したかどうかについて争いが生じないようにするため、一般的には、配達証明付き内容証明でその旨を記載した書面を郵送するという方法が採られます。
6 時効の完成猶予及び更新
債権は、上記の時効期間の経過によって消滅時効にかかることになりますが、一定の事由が発生した場合には、その間時効が完成しなくなったり(これを時効の完成猶予といいます)、新たに時効期間が進行を開始する(これを時効の更新といいます)ことになります。
例えば、裁判上の請求や支払督促等は時効の完成猶予事由とされており(民法147条1項)、確定判決(確定判決と同一の効力を有するものも同じ)によって権利が確定した場合に時効が更新されることが定められています。
また、債権を承認(例えば、消滅時効にかかっている債権を弁済した場合等)したことは、時効の更新事由とされています(民法152条1項)。
全ての完成猶予の事由や更新事由を紹介することは紙幅の関係上できませんが、債権者としては自らの債権を時効にかからせないために、適切な権利行使を行う必要があります。
7 まとめ
消滅時効が完成してしまったら、自分の持っている債権が消滅することになります。そのため、適切に権利行使を行っていく必要があります。ただ、時効の完成を猶予させるためには、裁判上の請求等複雑な手続きを採る必要があり、これがネックになる場合があるかもしれません。
一方で、実は、オンライン調停(ODR)という新しい選択肢によって、時効の完成を簡単に猶予させることが出来るようになるかもしれません。ODRとは、欧米圏を中心に世界的な広がりを見せているサービスで、仲裁人や調停委員といった話し合いをサポートしてくれるプロフェッショナルが第三者として間に入り、当事者同士でオンライン上での話し合いによる解決を図ることを目指すものです。
そして、ADR法では、当該手続きにおける請求時点で訴えの提起があったとみなすこととされておりますので(ADR法25条)、ADR認証を受けているODR機関に申立てを行えば、時効の完成を猶予させることができるようになっております。
ODRについてもう少し詳しく知りたいな、という方はこちらの記事も是非ご覧ください。
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- 上場企業のメーカー法務部の勤務を経て、現在、中之島中央法律事務所にて執務中。使用者側の労働事件・契約法務をはじめとした企業法務をメインの業務とする。
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