請求書が未払いになっているとか、年会費が未払いになっているなどで、ワンネゴから通知が届くことがあります。
このような通知が来た場合、適切に対応することで法的リスクを最小限に抑えることが可能です。
本コラムでは、ワンネゴから通知が来た場合の具体的な対応策について解説していきます。
1 そもそもワンネゴとは?
そもそも、「ワンネゴって何?」と思われる方もいると思いますので、ワンネゴについて解説していきます。
ワンネゴは、正式名称を「OneNegotiation(ワンネゴシエーション)」といい、株式会社AtoJの提供するODRサービスのことを言います。
では、このODRとは何でしょうか?
ODRは、ADRという単語から派生した言葉です。
ADRとは裁判外紛争解決手続のことを指していますが、例えば、仲裁、調停、あっせん等裁判以外で紛争を解決する手続きのことをいいます。
皆さんも調停という言葉であれば聞いたことがあると思います。調停とは、当事者の間を調停人が中立的な第三者として仲介し、トラブルの解決についての合意ができるように、話合いや交渉を促進したり、利害調整をしたりする手続きとなります。
一方、ODRは「Online Dispute Resolution」の頭文字をとった言葉ですが、字のごとくADRをオンライン上で行おうとする手続き
となります。
ODRには、オンライン上で手続きが完結するため、ADRと比較しても、迅速かつ簡便に手続きが進むことが特徴とされています。
近年、法務省がODRの実証事業を実施するなど、将来的に司法インフラとして発展していくことが期待されています。
2 ワンネゴが申し立てられたときはどう対応すべき?
では、実際にワンネゴが申し立てられたときには、どのように対応することが望ましいのでしょうか?
対応としては、①ワンネゴに応答し、申立人との合意の成立を目指す
、②無視する
の二つの選択肢があると思われます。以下では、それぞれの対応のメリット、デメリットを見ていくことにしましょう。
3 ワンネゴに応答するメリット・デメリット
ワンネゴに応答する場合のメリットとしては、
・無視すると、後から訴訟等が起こされる可能性がある
・反論があっても、ワンネゴの方が手間ではない
・柔軟な解決が可能
・間にオンライン調停人として専門家が入ることがあるので、無理筋な主張であっても、対応してくれる
などが考えられます。一つずつ見ていきましょう。
・無視すると、後から訴訟等が起こされる可能性がある
まず、ワンネゴが申し立てられている場合、申立人としては何らかの債権を有していると考えている場合が多いです。そのため、ワンネゴの申立てを無視すると、申立人はさらに訴訟等の法的手段をとってくることが考えられます。
そして、訴訟の提起がされた場合には、応訴することが必要となってきますが、ワンネゴで対応するよりも相応に手間がかかることになるのが一般的です。そういった将来的なコストを考慮すると、結局のところワンネゴによる解決を目指した方が安く済むといったことが考えられます。
もちろん、自分が申立人の主張には理由がないと考えている場合には、裁判所の判断を求めることも考えられます。ただ、申立人の主張に心当たりがある場合には、ワンネゴに応じてた方がコスト面でのメリットを享受できると思います。
・反論があっても、ODRの方が手間ではない
訴訟で自分の反論をするためには、答弁書や準備書面等といった書面に自分の主張を記載して裁判所に提出することが一般的です。答弁書や準備書面には形式が決まっておりますので、それに合わせて書面を準備する必要があり、専門家でない方にとってはかなりの手間がかかります。
また、裁判所は、法的な根拠をもって反論しないと全く考慮してくれません。そのため、いくら自分の主張が正しいと思っていても、いざ裁判所に持っていくと法的な根拠がないとして、判決が出されてしまうことも考えられます。
そのため、訴訟では、自らの主張が法的に根拠のあるものなのか、きちんと検証して主張する必要があります。
一方、ワンネゴでは基本的にあらかじめ設定された選択肢を入力することでこちらの主張を述べることができたり、ウェブ会議システムで調停人に直接口頭で自らの主張を述べることができたりします
ので、定まった形式による主張は求められていないことが多いです。
また、ワンネゴはあくまで話合いや互譲による解決を求める場ですので、自身の主張が法的に正しいかどうかまで厳密に検証する必要も少ないです。
このように、ワンネゴに応答した方が、自身の主張を述べることの手間を省くことができるともいえます。
・柔軟な解決が可能
さらに、上記のとおり、ワンネゴは話合いや互譲による解決を目指す場ですので、申立人の主張がいくら法的に正しくとも、相手方の同意がなければ解決には至りません。
この点からすれば、申立人としても、迅速な解決を望み、柔軟な解決案を提示することが考えられるため、裁判によることよりも双方にとってよりよい柔軟な解決ができる可能性が考えられます。
・間にオンライン調停人として専門家が入るので、無理筋な主張であっても、対応してくれる
そして、ワンネゴでは、中立的な第三者である調停人が仲介して話合いを進めていく
ことも可能です。
あくまでワンネゴは話合いによる解決を進める場ですので、自身の主張が多少無理筋であっても、調停人によって話合いによる解決をするための調整を行ってくれることも期待することができます。
一方、ワンネゴによる話合いに応じるデメリットは正直申し上げてほとんどありません。
話合いによる解決が難しければ、合意に応じなければよいだけです。
訴訟によって終局的な解決がなされる前に話合いによる解決を目指してみられてはいかがでしょうか。
4 ワンネゴに応答しない場合のメリット・デメリット
では、ワンネゴに応答しない場合のメリット・デメリットは何か考えられるでしょうか。
あえて申し上げるとすると、
・無視すれば時効が完成しやすくなるかもしれない
・ADRを無視して、そのあと申立人が裁判の提起等がなければ、結果的に、応訴負担や債務確定のリスクから解放される
ということが考えられます。
・無視すれば時効が完成しやすくなるかもしれない
債権には消滅時効というものがあり、消滅時効の期間を経過すると、その債権はそれ以降請求できないことになります(消滅時効についてはこちらのコラムをご覧ください→債権の時効について教えてください)。
そうすると、時効直前にワンネゴの申立てがされたとしても、それを無視しておけば消滅時効が完成することを期待できるといえます。
・その後申立人が裁判の提起等がなければ、結果的に、応訴負担や債務確定のリスクから解放される
申立人がワンネゴを申し立てた後に訴訟提起等のアクションに出ないと、応訴負担や債務額が確定するリスクから免れるというのもメリットかもしれません。
ただ、法的手段には、少額訴訟(少額訴訟についてはこちらのコラムをご覧ください→少額訴訟ってなに? 60万円以下のお金のトラブルに限って利用できる裁判制度があるって聞いたけど・・・)や支払督促(支払督促についてはこちらのコラムをご覧ください→支払督促とは?手続き等について解説します)といった訴訟提起よりも簡便な方法も整備されております。
そのため、ワンネゴの申立てを無視しても、少額訴訟等が申し立てられるとそれに応答する必要が生じることになります。そういったリスクを抱えるのであれば、ワンネゴに応答してより柔軟な解決を目指す方が良いのだろうと考えられます。
5 最後に
以上見てきたように、ワンネゴの申立てがされた場合に、それを無視することは得策であるとはいえません。
実際に申立てがされた場合には、本コラムを参照にして柔軟な解決を目指されてはいかがでしょうか。
Author Profile
- 上場企業のメーカー法務部の勤務を経て、現在、中之島中央法律事務所にて執務中。使用者側の労働事件・契約法務をはじめとした企業法務をメインの業務とする。
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