比較的少額の債権を回収したい場合、どのような手続きによるのが良いのでしょうか。
裁判や、裁判外での交渉、ADR(調停など)など、色々な方法がありますが、
今回は、少額訴訟とODRに焦点をあてて、ご説明します。
(訴訟や、従来のADRとの違い等については、こちらの記事【お金のトラブルをオンラインで解決!?新しい紛争解決手段”ODR(オンライン紛争解決)”とは】もご覧ください。)
目次
1 少額訴訟とODRの違い
少額訴訟とは、60万円以下の金銭の支払いを求める場合に利用できる、特別な訴訟手続きです。訴訟ですので、裁判所に申し立てることによって利用できます。
他方、ODRとは、オンラインで行うADR(裁判外での紛争解決手続き)です。ODRは、これを行う民間の機関に申立てを行うことになります(法務省が認証した、民間紛争解決手続を利用すべきでしょう)。
この少額訴訟とODRの違いを簡単にまとめると、以下のようになります。
少額訴訟 | ODR | |
機関 | 裁判所 | 民間 |
対象事件 | 60万円以下の金銭の支払いを求める場合に限られる。 | 制限はなし。 |
費用 | △ 手数料は、請求額に応じて6000円まで。 (弁護士に依頼する場合は別) | ○ ほとんどかからない。 (弁護士に依頼する場合は別) |
準備の負担 | × 訴状の作成、証拠の準備等、専門的な準備が必要。 | ○ オンラインで入力を行えばよく、難しい書面を準備しなくてよい。 |
弁護士に依頼する必要性 | △ 通常の裁判と比べると必要性は高くないが、専門的な準備は必要。 | × 自由に話し合いを行えるので、ほとんど必要がない。 |
解決までの時間 | △ 通常1回の期日で判決が出るため、速く終了するが、 期日が入るまでに時間がかかるので、開始が遅くなる。 また、相手から申述されれば、通常の裁判に移行してしまい、さらに長期化する。 | ○ オンラインなので日程調整が簡単。 解決に至らなくても1か月以内に終了するため、長期化することはない。 |
相手に対する送達(連絡)方法 | × 裁判所から特別送達による郵便を届けてもらうため、 相手の住所等がわかる必要がある。 | ○ URLを送るだけで良いので、SMSやSNSなど、何らかの形で連絡できれば良い。 |
相手に対するインパクト、負担の小ささ | × あくまで裁判所で行う手続きであるため、相手も負担がかかるうえ、委縮してしまう可能性。 | ○ URLをクリックすれば、オンラインで話し合いを行うことができるので、 相手の負担も少ない。 |
最終的な解決のしやすさ | 〇 相手が合意しなくても、裁判所から判決を出してもらえる。 通常の裁判より、柔軟な対応も可能 (分割払い、支払猶予、遅延損害金免除等)。 | △ 当事者が合意に至らなければ終了してしまうが、 合意に至った場合には柔軟な解決が可能。 |
強制執行 | ○ 判決や和解に至った場合、強制執行が可能。 | △ 和解した内容を公正証書等にすれば、強制執行が可能(別途手続きが必要)。 |
回数制限 | 年間10回まで(368条1項)。 | 特になし。 |
おすすめの場面 | 証拠書類等がそろっていて、こちらの言い分が認められそうなとき。 相手の住所がわかるとき。 相手と話し合いができそうになく、裁判所に決めてもらいたいとき。 | 紛争解決の初めの一歩として、相手と連絡がとれ、話し合いができそうなとき。 |
このうち、今回は、ODRと少額訴訟の特徴的な違いにスポットをあてて、それぞれのメリットをご紹介します。
2 ODRのメリット①相手の住所等が分からなくても、申立てができる!
昨今、LINE、TwitterやInstagram等のSNSでのみやり取りを行っている場合も少なくないでしょう。
このような場合に、少額訴訟を提起するのは、実は難しいのです。
少額訴訟は、裁判所による裁判手続きの一種ですので、裁判所に対して申立てを行う際、相手の住所がわからなければなりません。
もし、相手の住所がわからない場合でも、勤務先の住所がわかれば良いのですが、
これらがわからない場合に、調査するのは簡単ではなく、結局、弁護士などの専門家に依頼しなければならない可能性が高くなってしまいます。
通常の民事裁判では、相手の住所等がわからない場合、「公示送達」という方法によって、相手に届けられたものとみなす制度もありますが、
これは少額訴訟では認められていません。
したがって、相手の住所等がわからない場合には、結局、少額訴訟の提起すら難しくなってしまいます。
他方、ODRの場合、相手の住所がわかる必要はありません。
ODRに招待する文章を、相手のメール、SMS(ショートメッセージ)、SNSなどに貼り付ければよいだけです。
したがって、相手とSNSでしか連絡をとっていない場合にも、簡単にODRを開始することができ、スムーズに解決を図ることができるのです。
3 ODRのメリット②相手に対するインパクトが小さく、相手も交渉に応じやすい!
少額訴訟を提起した場合、こちらが作成した訴状を裁判所に提出すると、
裁判所から、「特別送達」という郵便が相手に届きます。
これは、必ず対面で受け取らなければならないものなので、その時点で相手がかまえてしまう可能性もあります。
また、期日では、自分も相手も裁判所に出頭しなければならず、相手の時間的・経済的負担があります。
他方、ODRでは、招待する文章をメールやSNSなどで直接送信しますので、受け取る相手に与えるプレッシャーが比較的小さいといえます。
そして、どこにいても、オンライン上で話し合いを行うことができるので、相手にとっても時間的・経済的負担は小さいといえるでしょう。
そうすると、結局のところ、相手が話し合いのテーブルにもつきやすくなり、和解もしやすくなるかもしれません。
相手と話し合いをしたいと思っても、相手が話し合いの「場」に来なければ、できる和解もできなくなってしまいますが、
そういう意味でも、ODRのメリットは大きいといえるでしょう。
4 少額訴訟のメリット 最終的に裁判所が判決を出してくれる!
そんなODRにも、デメリットはあります。
それは、相手と和解に至らなかった場合には、手続きがそこで終了してしまうということです。
ODRにおいて、第三者が、相手や自分に「こうしなさい」ということはできません。あくまで、ODRは相手との話し合いの場にすぎないからです。
したがって、相手との交渉が成立しなかった場合には、別の方法(裁判など)を考えざるを得なくなってしまうのです。
他方、少額訴訟では、和解に至らなかった場合、裁判所が判決を出してくれます(もちろん、和解することもできます)。
したがって、こちらの請求がみとめられた場合には、相手に対し、「いついつまでに支払いなさい」とか、「こういう方法で支払なさい」と命じてくれるので、そこで結論が出ます。
この点は少額訴訟のメリットといえるでしょう。
5 おすすめの回収方法~まずはODRから~
以上、ODRと少額訴訟のそれぞれの特徴をみてきましたが、結局のところ、どういう方法をとるのがよいのでしょうか?
おすすめの方法は、まずODRを申し立てることです。
今まで見てきたとおり、ODRを行えば、相手が交渉に応じやすくなる可能性もありますから、そこで交渉が成立すれば、これ以上いいことはないでしょう。
他方、もし交渉が決裂してしまっても、そのあとで少額訴訟や、場合によっては裁判をおこせば、裁判所が判決を出してくれます。
ODRは一か月以内に終了することが多いので、まずODRを行ってからでも、遅くはないといえるでしょう。
少額債権の回収のための第一手として、ODRをぜひご検討されてはいかがでしょうか。
株式会社AtoJの提供するワンネゴは、金銭債権に特化したODRサービスを提供しております。ご利用はこちらから!→One Negotiation(ワンネゴ)
Author Profile
- 弁護士法人関西法律特許事務所での勤務を経て、弁護士法人新都法律事務所にて執務中。法人・個人を問わず、幅広い分野での交渉・訴訟に対応している。共著「最新 債権管理・回収の手引(新日本法規)」。
Latest entries
- 未分類2023.10.24データからみる“泣き寝入り問題”③診療費トラブル編
- 未分類2023.09.20データから見る“泣寝入り問題”②家賃トラブル編
- 未分類2023.08.10データから見る“泣寝入り問題”①養育費トラブル編
- 未分類2023.06.14改正ADR法について教えてください