令和5年4月21日、仲裁法の一部を改正する法律(令和5年法律第15号)、調停による国際的な和解合意に関する国際連合条約の実施に関する法律(令和5年法律第16号)、裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律の一部を改正する法律(令和5年法律第17号)が成立しました(同月28日公布)。
これら3つは、いずれも裁判外の民間ADR(民間機関による紛争解決手続)の利用を促進することを目的として改正・制定
されています。
ADRとは、裁判外の紛争解決手続のことで、裁判所に提起する「裁判」ではない民事調停などもこれに含まれます。そして、民間ADRとは、裁判「所」ではない民間の事業者におけるADR手続のことです。我が国では、民間ADR事業者として、法務省から認証を受けている機関があります。
今般の法改正により、裁判によらない、民間ADRによる紛争解決手続きが、一層利用しやすくなりました!
今回は、今後1年以内に施行される、裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律の一部を改正する法律(改正ADR法)について、概要をご紹介します。
改正のポイント~執行力の付与~
結論からいうと、改正ADR法により、大きくは、国内和解合意について、執行力を付与する法制が規律されました。
そもそも、従来、ADRで和解をしただけでは、執行をすることができませんでした。
たとえば、「AはBに100万円支払う。」という内容の和解が成立したとしても、
Aさんが実際に支払わない場合、Bさんは、別途裁判を提起して判決を取り、その判決をもってまた裁判所に強制執行申立てを行わなければ、Aさんの財産を差し押さえたりして回収を行うことができなかったのです。
これではせっかく和解しても、実効性が確保されていないことになり、執行を視野に入れるためには、わざわざ執行認諾文言付きの公正証書を作成するなどの方法で和解を行う必要がありました。
しかし、今回のADR法改正によって、公正証書を作成しなくても、あらかじめ執行合意を含む和解をしておけば、その和解合意にしたがって、執行をすることができるようになりました。
改正の経緯
なぜこのような改正がなされたのでしょうか。
そもそも、ADRにより成立した和解に執行力を付与することについては従来から議論されてきました。
そんななか、調停による国際的な和解合意に関する国際連合条約(略称:調停に関するシンガポール条約)が、平成30年12月20日に国連総会において採択され、令和2年9月12日に発効しました。
もし我が国でシンガポール条約を承認・批准し、これを国内で実施する法律を成立させたとすると、シンガポール条約に従い、国際商事紛争の和解であれば(認証ADR機関によらなくても)執行力が認められることになるのに対し、
国内紛争の和解であれば、法務省が認証した認証ADR機関による和解であっても、執行力が認められないことになり、バランスを失するとの議論がなされていたのです。
そこで、国内における和解についても、執行力を付与する運びになりました。
改正の概要~①あらかじめ執行について合意があること~
改正ADR法では、
「特定和解:認証紛争解決手続において紛争の当事者間に成立した和解であって、当該和解に基づいて民事執行をすることができる旨の合意がされたもの」
と定義されていることから、
和解合意書の中であらかじめ執行についても合意されている必要がある
ことになります。
和解成立後に、別途執行合意をするのでは、執行することができませんので、注意が必要です。
また、この「特定和解」の定義からして、このような合意をするのは、認証紛争解決手続である必要があり、要するに法務省から認証を受けた民間ADR事業者の下で行うADR手続の中で合意をすることが必要
になります。
改正の概要~②対象事件~
改正ADR法では、以下の事件については適用除外と定められています。
(1)消費者と事業者との間で締結される契約に関する紛争に係る特定和解
(2)個別労働関係紛争に係る特定和解
(3)人事・家庭に関する紛争に係る特定和解
ただし、民事執行法151条の2第1項各号に掲げる義務にかかる金銭債権(「養育費等」)に係るものを除く
(4)国際和解合意に関する新法の適用対象となる特定和解
つまり、簡単にいうと、
①消費者契約、②労働紛争、③離婚における財産分与についてなど、家庭に関する紛争
は適用除外となります。
ただ、家庭に関する紛争であっても、養育費に関するものは、適用除外の適用除外、つまり適用がある点がポイントです!
近年、養育費について合意したとしても実際の支払いを受けられないなど、養育費に関する問題が社会問題になっていることから、養育費については、和解で執行できるようにしましょう、ということになりました。
養育費の支払いは、長い年月になる場合もあるため、履行を確保することが大切です。改正法で、和解があればスムーズに執行できるようになったことは重要なポイントだといえるでしょう。
改正の概要~③裁判所に対する執行の申立て~
いざ、和解をもとに執行を申し立てるためには、裁判所に対し執行決定を求める申立てを行うことになります。
執行決定とは、特定和解に基づく民事執行を許す旨の決定のことをいいます。
申立てには、
・特定和解の内容が記載された書面であって当事者の署名があるもの等、当事者の同一性及び意思が確認できるもの(書面もしくは電磁的記録)
・認証紛争解決事業者(認証民間ADR事業者)が作成した、認証紛争解決手続が実施されたことを証明する書面等
が必要になります。
概要①とも重なりますが、執行を見すえた和解を行うには、認証民間ADR事業者の下で手続きを行うことが必須といえます。
ODRのすすめ
いかがでしたか?
改正ADR法により、民間ADRによる紛争解決手続きが、一層利用しやすくなります。
株式会社AtoJが運営するOneNegotiation(ワンネゴ)は、法務省から認証を受けた民間ADR機関で、現役の弁護士が監修・運営している、オンラインでのADR(ODR)です。
ワンネゴで和解を行う場合には、改正ADR法にももちろん対応。執行合意についても適切に助言を行うことが可能ですので、執行を見すえた和解を行うことができます。
裁判によらず、ODRを利用することのメリットについては、こちら(より良い少額債権の回収方法とは?~少額訴訟とODR~)もご参照ください。
和解を検討するのであれば、気軽で、確実な、ODRを利用してみてはいかがでしょうか。
ワンネゴについて気になった方はこちらをご覧ください→One Negotiation(ワンネゴ)
Author Profile
- 弁護士法人関西法律特許事務所での勤務を経て、弁護士法人新都法律事務所にて執務中。法人・個人を問わず、幅広い分野での交渉・訴訟に対応している。共著「最新 債権管理・回収の手引(新日本法規)」。
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