1 少額訴訟ってなに?
貸したお金が返ってこないときや、何かしらのサービスを提供したのに支払いをしてもらえないときなど、どういった手段で回収をしていけばいいのかというのは非常に悩ましい問題だと思います。
その際、少額訴訟を利用することを検討してみてはいかがでしょうか。
少額訴訟は、訴訟の目的の価額が60万円以下の金銭の支払の請求を目的とする訴えのことをいいます(民事訴訟法368条1項)。
少額訴訟の場合、通常、1回裁判所に行けば審理を終えて判決を出してくれる(法370条1項、374条1項)ため、通常の訴訟よりも解決の時間が短く、訴える側の心理的な負担が少なく、判決がもらえればすぐに強制執行に移行することもできるので、債権回収に向けて迅速に動くことができるという特徴があります。
2 少額訴訟のメリット
少額訴訟のメリットとしては、
・先ほど述べたように、通常、1回裁判所に行けば審理を終えて判決を出してくれる(法370条1項、374条1項)ため、通常の訴訟よりも解決の時間が短くて済むこと
・少額訴訟では、被告に対し、3年を超えない範囲で分割払いや支払猶予等を命じる判決を出すことができる(375条1項)ため、相手方の資力等を考慮して支払える範囲での分割払いを命じてもらうことで、より債権回収の実現を高め、柔軟な解決が可能であること
・控訴が認められておらず(377条)、異議申し立てしか認められていない(378条1項)ため、上級審に移行することなく紛争が解決でき、この点からも通常訴訟より解決の時間が短くて済むこと
が挙げられます。
3 少額訴訟のデメリット
ただ、一方で、少額訴訟のデメリットとして、
・そもそも60万円以下の金銭の支払を請求の目的とする場合にしか認められておらず、対象となる紛争が限定されていること
・被告から申述があれば、通常訴訟に移行することとされており(373条1項)、通常訴訟に移行させる旨の申述がされた場合には、紛争解決の迅速性という少額訴訟のメリットを享受できなくなってしまうこと
・また、上に述べたように、少額訴訟では控訴が認められていないうえ、裁判所が柔軟に判決を出せることから、仮に訴訟提起後の遅延損害金を免除するという判決が出た場合には、本来得られたはずの遅延損害金が得られなくなる場合があること
・少額訴訟は、当事者一人につき、年間10回をまでしか利用できないこと(368条1項)
などがあげられます。
4 少額訴訟を利用すべき場合
少額訴訟は、審理は原則として1日のみ(370条1項)、証拠は即時に取り調べられるものに限定され(371条)、弁論終結後直ちに判決が言い渡されることになっております。そのため、1回目の審理までに証拠を提出する必要があり(つまり後から自分に有利な証拠が見つかってもそれを提出する機会がありません)、証拠はすぐに取調べることのできるものに限られています。そのため、証人に証言してもらいたいときは、1回目の審理に一緒に来てもらう他、電話会議システムを使って裁判所に出廷せずに証言してもらうことが可能です(372条3項)。
このように、少額訴訟は迅速性を重視した手続きであるため、紛争の内容が複雑で、証拠が多岐にわたる場合や、複数の証人の尋問が必要である場合、鑑定等を実施する必要がある場合には、通常1回の審理で判断することができないため、少額訴訟は適さないと思われます。
一方、請求の内容が単純で、請求自体に争いがないような場合(例えば、契約書自体は締結されており、その契約内容については債務者が争っていないが、支払がされていない場合)には少額訴訟の方が適しているといえます。
5 少額訴訟にかかる費用
請求額に応じて、以下のように定められ、当該手数料を収入印紙で納付します。
請求額 | 手数料 |
~10万円 | 1000円 |
~20万円 | 2000円 |
~30万円 | 3000円 |
~40万円 | 4000円 |
~50万円 | 5000円 |
~60万円 | 6000円 |
6 少額訴訟の手続き
少額訴訟は、通常裁判と同様、債務者の住所・事務所の所在地等、または義務履行地を管轄する簡易裁判所に対して申し立てます(4、5条)。
原告が訴状および証拠書類を裁判所へ提出すると、裁判所は訴状等を審査し、期日を指定し、被告に対し、訴状や期日呼出状を送達します。それらを受領した被告は、答弁書及び証拠書類を準備し、裁判所へ提出します。原告及び被告は、期日までに追加して提出すべき証拠書類及び証人の準備をします。
期日は原則1回であり、その1回で裁判所は双方の言い分を聞き、証拠書類や証人を調べます。そして、少額訴訟では、審理完了後、直ちに判決を言い渡されます。
7 まとめ
少額訴訟は、お話ししてきたように、裁判所が提供している低額な費用負担で利用できる手続です。判決という強制執行に移ることのできる切符を与えてもらえる手続ですので、とても意義ある制度です。
とはいえ、単に請求額が60万円以下だから少額訴訟を利用するべきではなく、自分の請求が少額訴訟を行うべきものかどうか慎重に検討するべきです。
また、裁判手続である以上、一般の方にはハードルが高いところもありますし、強制執行できるようになると言っても、相手がどんな財産を持っているか分からない、実際に回収まで至れるのかは分からないという避けがたい問題はあります。
一方で、実は、少額であればある程、話し合いによって回収という解決に至る可能性は高まると言われています。もちろん全額の支払いが受けられるかは分かりませんし、もしかしたら結局支払いが受けられないということだってあるでしょうが、話し合いによる解決を目指す、オンライン調停(ODR)という新しい選択肢が世の中には登場しています。
欧米圏を中心に世界的な広がりを見せているサービスで、仲裁人や調停委員といった話し合いをサポートしてくれるプロフェッショナルが第三者として間に入り、当事者同士で話し合いによる解決を図ることを目指すものです。
ODRについてもう少し詳しく知りたいな、という方はこちらの記事も是非ご覧ください。少額訴訟も一つの手段ですが、法的な手段に出る一歩前に、気軽に使えるオンライン調停という手段があることも、是非皆さん知っておいて下さい。
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- 上場企業のメーカー法務部の勤務を経て、現在、中之島中央法律事務所にて執務中。使用者側の労働事件・契約法務をはじめとした企業法務をメインの業務とする。
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