支払い能力がない~一弁護士の視点から

弁護士 菅野園子(大阪弁護士会)
弁護士 菅野園子(大阪弁護士会)
2024/03/28

支払い能力について考えることは、これから相手がどれくらいお金を払えるかということで、とても大切なことです。

たとえば、私たち弁護士が、「相手に何かの理由でお金を請求したい」という法律相談をうけたとき、必ず相談者の方に「相手に支払い能力がありそうかどうか」を確認します。

では、実際に、私たち弁護士はどういった観点から支払い能力を確認しているか、具体的に説明していこうと思います。

1 支払い能力とは?


 相手に土地、建物などの不動産・預貯金・保険その他あらゆる資産や、相手の収入、保証人やお金を用立ててくれそうな人間関係なども含めて検討します。

 不動産なら登記簿謄本で所有者を確認したり、預貯金であればどこの銀行のどの支店か、勤務先や取引先はどういうところか、できるだけ、具体的な情報が必要です。相手の社会的地位や将来性も、これから頑張って払うことができるかという点では支払い能力の1つだと思っています。

 

2 支払い能力はなぜ必要か


 「ない袖はふれない」ということわざがあるように、たとえ、相手から1億円受け取れる権利(これを1億円の債権(さいけん))と言います)があっても、相手の資産もなく、収入もなく、お金を用立ててくれる人間関係などもなければ、どうにもこうにも進みません。

 例えば、裁判手続きで相手に支払いを命じる判決文を得ると、相手の財産を差押えできることになりますが、相手が無職で収入もなく、かつ、相手名義のめぼしい財産もなければ、それはまさに「絵に描いた餅」となってしまいます。

 私たち弁護士がとても避けたい事態は、裁判で勝訴し、これから相手から支払ってもらおうとした矢先に、相手に全く支払能力がないとわかる事態です。これまでの労力がすべて無駄になってしまうことになります。

3 相手の支払い能力の有無を知ることはとても難しい


 相手の支払い能力をあまり心配しなくていい場合として、交通事故などで相手が任意保険に加入している場合、ある程度の規模の企業を相手にする場合などがあげられると思います。

 あるいは、例えば離婚裁判における財産分与などは、配偶者が相手ですからその懐(ふところ)具合をわかっていたりすることが多いです。長年取引のある企業で相手の取引先や取引銀行が分かっている場合など、要するに相手についてのお金についての情報が多ければ多いほど支払い能力の有無を判断しやすいといえます。

逆に、相手についての情報が少ない場合、相手に財産があるか調べることはこの現代社会において、容易ではありません。「個人情報保護」の壁があり預貯金などは銀行などに聞いても教えてくれません。住所を知らなければその住まいが本人の物かどうかも調べられません。

4 対処法について


・事前に相手から情報を入手しておく。

取引に入る前などは、あらかじめ、相手の財産状態についてのアンテナを張っておくこと。たとえば、相手が個人の場合相手の勤務先や住所、会社の場合、取引先や取引銀行についての情報を入手しておいたほうがよいと考えられます。

・いざ相手が支払わないなどお金の請求をしなければならなくなった時

支払いが焦げ付いた時などは取り立てのための経済的・時間的コストをできるだけ少なくするということは、きわめて大切なことです。裁判で判決を得れば強力な力を得ますが、やはり時間と経済的コストがかかります。そのため、裁判以外の様々な手段も検討して、回収を行う必要があります。

5 ODRの選択


 以上のように、支払いが焦げ付き始めたときには、相手方の支払い能力を加味して様々な回収方法を検討する必要があります。

 その際には、回収のための経済的・時間的コストを十分に考えて、回収方法を検討する必要がありますが、相手の支払い能力がわからない場合においても、コストが比較的かからないODRを選択とすることは時によって非常に合理的ではないかと思われます。

 株式会社AtoJの提供するワンネゴは、無料で申立てを行うことが可能ですので、回収のための経済的コストを考えた場合、一つとして有力な選択肢になってくるものと思います。また、すぐには支払い能力がない場合であっても、ワンネゴ内の調停手続きにおいて分割払いの話をすることで、少しずつでも回収を行うことも可能になります。

 相手方の支払い能力がわからずにお金の回収に悩まれている方は、是非一度利用をご検討ください。

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