ADR・ODR機関から通知が来た場合の対応

弁護士 垂水祐喜(大阪弁護士会)
弁護士 垂水祐喜(大阪弁護士会)
2023/10/11

突然ADR・ODR機関から通知が来て、それが身に覚えのあるものであった場合、どのように対応するのが得策なのでしょうか?

ADR・ODRは無視した方が良いのでしょうか?結論からいえば、ADR・ODRの申立てがされた場合には無視をしない方が得策だといえます。

本コラムでは、ADR・ODRの申立てがされた場合の対応について解説していきます。

1 そもそもADR・ODRとは?


そもそも、ADR・ODRという言葉について聞き馴染みのない方もいらっしゃると思いますので、ADR/ODRについて解説していきます。

ADRとは裁判外紛争解決手続のことを指しており、「Alternative Dispute Resolution」の頭文字をとってADRと呼ばれています。例えば、仲裁、調停、あっせん等の手続きが挙げられます。

皆さんも調停という言葉であれば聞いたことがあると思います。調停とは、当事者の間を調停人が中立的な第三者として仲介し、トラブルの解決についての合意ができるように、話合いや交渉を促進したり、利害調整をしたりする手続きとなります。

この調停もADRの一種とされます。

一方、ODRは「Online Dispute Resolution」の頭文字をとった言葉ですが、字のごとくADRをオンライン上で行おうとする手続きとなります。

ODRには、オンライン上で手続きが完結するため、ADRと比較して迅速かつ簡便に手続きが進むことが特徴とされています。近年、法務省がODRの実証事業を実施する(詳しくはこちらのコラムをご覧ください→実証事業「ONE(ODR New Experience)」が開始しました)など、将来的に司法インフラとして発展していくことが期待されているものです。

2 ADR・ODRが申し立てられたときはどう対応する?


では、実際にADR・ODRが申し立てられたときには、どのように対応することが望ましいのでしょうか?

対応としては、①ADR・ODRに応答し、申立人との合意の成立を目指す、②無視するの二つの選択肢があると思われます。以下では、それぞれの対応のメリット、デメリットを見ていくことにしましょう。

3 ADR・ODRに応答する場合のメリット・デメリット


ADR・ODRに応答する場合のメリットとしては、

・無視すると、後から訴訟等が起こされる可能性が高い
・反論があっても、ODRの方が手間ではない
・柔軟な解決が可能
・間にオンライン調停人として専門家が入るので、無理筋な主張であっても、対応してくれる

などが考えられます。一つずつ見ていきましょう。

・無視すると、後から訴訟等が起こされる可能性が高い

まず、ADR・ODRが申し立てられている場合、申立人としては何らかの債権を有していると考えている場合が多いです。そのため、ADR・ODRの申立てを無視すると、申立人はさらに訴訟等の法的手段をとってくることが考えられます。

そして、訴訟の提起がされた場合には、応訴することが必要となってきますが、ADR・ODRよりも相応に手間がかかることになるのが一般的です。そういった将来的なコストを考慮すると、結局のところADR・ODRによる解決を目指した方が安く済むといったことが考えられます。

もちろん、自分が申立人の主張には理由がないと考えている場合には、裁判所の終局的判断を求めるということもあり得るところです。ただ、申立人の主張に心当たりがある場合には、ADR・ODRに応じてた方がコスト面でのメリットを享受できると思います。

・反論があっても、ODRの方が手間ではない

訴訟提起を受けた場合、自分の反論を主張するためには、答弁書や準備書面等といった書面に自分の主張を記載して裁判所に提出することが一般的です。答弁書や準備書面には形式が決まっておりますので、それに合わせて書面を準備する必要があり、専門家でない方にとってはかなりの手間がかかります。

また、裁判所は、法的な根拠をもって反論しないと全く考慮してくれません。そのため、いくら自分の主張が正しいと思っていても、いざ裁判所に持っていくと法的な根拠がないとして、判決が出されてしまうことも考えられます。

そのため、訴訟では、自らの主張が法的に根拠のあるものなのか、きちんと検証して主張する必要があります。

一方、ODRでは基本的にあらかじめ設定された選択肢を入力することでこちらの主張を述べることができたり、ウェブ会議システムで調停人に直接口頭で自らの主張を述べることができたりしますので、定まった形式による主張は求められていないことが多いです。また、ADR・ODRはあくまで話合いや互譲による解決を求める場ですので、自身の主張が法的に正しいかどうかまで厳密に検証する必要も少ないといえます。

このように、ADR・ODRに応答した方が、自身の主張を述べることの手間を省くことができるともいえます。

・柔軟な解決が可能

さらに、上記のとおり、ADR・ODRは話合いや互譲による解決を目指す場ですので、申立人の主張がいくら法的に正しくとも、相手方の同意がなければ解決には至りません。

この点からすれば、申立人としても、迅速な解決を望み、柔軟な解決案を提示することが考えられるため、裁判によることよりも双方にとってよりよい柔軟な解決ができる可能性が考えられます。


・間にオンライン調停人として専門家が入るので、無理筋な主張であっても、対応してくれる

そして、調停においては中立的な第三者である調停人が仲介して話合いを進めていくことになります。

あくまでADR・ODRは話合いによる解決を進める場ですので、自身の主張が多少無理筋であっても、調停人によって話合いによる解決をするための調整を行ってくれることも期待することができます。

一方、ADR・ODRによる話合いに応じるデメリットは正直申し上げてほとんどありません。

話合いによる解決が難しければ、合意に応じなければよいだけです。

訴訟によって終局的な解決がなされる前に話合いによる解決を目指してみられてはいかがでしょうか。

4 ADR・ODRに応答しない場合のメリット・デメリット


では、ADR・ODRに応答しない場合のメリット・デメリットは何か考えられるでしょうか。

あえて申し上げるとすると、

・無視すれば時効が完成しやすくなるかもしれない
・ADRを無視して、そのあと申立人が裁判の提起等がなければ、結果的に、応訴負担や債務確定のリスクから解放される

ということが考えられます。

・無視すれば時効が完成しやすくなるかもしれない

債権には消滅時効というものがあり、消滅時効の期間を経過すると、その債権はそれ以降請求できないことになります(消滅時効についてはこちらのコラムをご覧ください→債権の時効について教えてください)。

そうすると、時効直前にADR・ODRの申立てがされたとしても、それを無視しておけば消滅時効が完成することを期待できるといえます。

ただ、その場合でも、申立通知を受けた日から一月以内に当該認証紛争解決手続の目的となった請求について訴えを提起したときは、時効の完成猶予に関しては、当該認証紛争解決手続における請求の時に、訴えの提起があったものとみなされる(ADR法25条)とされています。

簡単に申し上げると、ADR・ODRの申立て通知を受けて、それ無視をしていても、1カ月以内に訴訟が提起されると、時効の完成が猶予されることになります。そのため、結局、その後に訴訟提起がされてしまうと、ADR・ODRを無視をしても消滅時効が完成するというメリットを受けられないことになってしまいます。

・その後申立人が裁判の提起等がなければ、結果的に、応訴負担や債務確定のリスクから解放される

申立人がADR・ODRを申し立てた後に訴訟提起等のアクションに出ないと、応訴負担や債務額が確定するリスクから免れるというのもメリットかもしれません。

ただ、法的手段には、少額訴訟(少額訴訟についてはこちらのコラムをご覧ください→少額訴訟ってなに? 60万円以下のお金のトラブルに限って利用できる裁判制度があるって聞いたけど・・・)や支払督促(支払督促についてはこちらのコラムをご覧ください→支払督促とは?手続き等について解説します)といった簡便な方法も整備されております。

そのため、ADR・ODRの申立てを無視しても、少額訴訟等が申し立てられるとそれに応答する必要が生じることになります。そういったリスクを抱えるのであれば、ADR・ODRに応答してより柔軟な解決を目指す方が良いのだろうと考えられます。

5 最後に


以上見てきたように、ADR・ODRの申立てがされた場合に、それを無視することは得策であるとはいえません。

実際に申立てがされた場合には、本コラムを参照にして柔軟な解決を目指されてはいかがでしょうか。

Author Profile

弁護士 垂水祐喜(大阪弁護士会)
上場企業のメーカー法務部の勤務を経て、現在、中之島中央法律事務所にて執務中。使用者側の労働事件・契約法務をはじめとした企業法務をメインの業務とする。