データからみる“泣き寝入り問題”③診療費トラブル編

弁護士 榎本愛(大阪弁護士会)
弁護士 榎本愛(大阪弁護士会)
2023/10/24

医療費は、高額になる場合もあり、病院における未収金(ここでは、患者の方が支払う医療費のうち、支払われるべき期日までに支払われなかった金額のこと)が、実は大きな問題となっています。

今回は、病院の医療費等の未回収トラブルにスポットをあて、数字を見ていきましょう。

※患者負担の窓口未収金のみ

そもそも病院ってどれくらいあるの?日本の医療費ってどれくらいの金額なの?


まず、全体像をみていきましょう。

日本には、令和3年度で8,205もの病院が存在します。他の年度と比較しても、やや減少傾向にあるものの、ほぼ横ばいといえます。

(出典:各年度における厚生労働省「医療施設(動態)調査」をもとに筆者が作成。)

そして、医療費の総額は、令和4年度では46兆円にもなっています(ここにいう医療費とは、これからみていく患者が窓口で負担する額に限られず、保険者負担等も含んだ全ての医療費をいいます。)。

医療費総額は、他の年度と比べるとやや増加傾向にあります。

(出典:令和4年度 医療費の動向-MEDIAS-をもとに筆者が作成)

つづいて、病院ごとの医療費(ここでは、患者が窓口で負担する金額をいいます。)を見ていきましょう。

1病院あたりの収入(窓口負担金)は、令和3年10月は8467万8000円、11月は8370万3000円でした。

(出典:令和3年度 医療施設経営安定化推進事業 病院経営管理指標及び医療施設における未収金の実態に関する調査研究をもとに筆者が作成。以下令和3年度のデータは同じ。)

参考までに、平成30年10月、11月及び令和元年10月、11月における、それぞれの1病院あたりの収入、及び1病院あたりの実患者数は下記のとおりでした。

(出典:令和元年度は000632645.pdf (mhlw.go.jp)、平成30年度は000497101.pdf (mhlw.go.jp)をもとに筆者が作成。以下、同年度のものは同じ。)

参考までに3年度を比較してみると下記のとおりになります。かなり幅のあるデータになっていますが、この差は、アンケートに回答した病院の規模等にもよるものがあるかもしれません。

それぞれの病院当たりの未収金って、どれくらいあるの?


それではいよいよ、未収金問題を見ていきましょう。

令和3年10月単月における、1病院当たりの未収金の平均金額は102万7000円、11月単月における未収金は119万9000円だったようです。

これに対応する平均患者数は、10月で52人、11月で59人と算出されています。

平均して、1病院当たり50人~60人の患者によって、100万円以上の未収金が発生しているということになります。

これは、想像以上に多いと感じる方が多いのではないでしょうか。

こちらも、参考までに3年度を比較してみましょう。

比較してみると、平成30年がずば抜けて多いように見えますが、前述のとおり回答した医療機関の規模等にもよるところがあるかもしれません。

さて、令和3年度に話をもどしましょう。

下記は、令和3年度10月及び11月の窓口負担金(収入)に対する、未収金の割合を示したデータです。

0%~1%未満が、10月で56.1%、11月においても46.3%だったようです。

また、1%以上5%未満が、10月で34.7%、11月で39.9%だったことからすると、いずれの月においても、未収金が窓口負担金の5%未満にとどまる場合が約9割を占めるようです。

つまり、それぞれの病院当たりでは、回収すべき金額のうち少しずつの部分について、回収漏れがあるというケースがほとんどであり、それが積もり積もって全体としては膨大な金額となっているといえるでしょう。

「人」単位でみた場合も同じことがいえそうです。すなわち、未収金が生じた病院のうち、実患者数に対する、未収金が発生した患者数の割合は、10月、11月ともに0%~5%未満がほとんどだったようです(10月で95.7%、11月で93.3%が、0%超5%未満)。

つまり、「人」単位においても、当該病院当たりで未収金が発生してしまう患者数は決して多くはないものの、全体として大きな人数となり、それが大きな未収金額をもたらしてしまっているといえます。

未収金の問題にも、ODRが利用できる!


いかがでしたか?

病院における未収金の問題は、1病院それぞれでみていくと、全体のうち大きな割合を占めるとはいえないかもしれません。しかし、それが積もり積もって、ひと月100万円以上もの未収金が発生していると思うと、決して無視できない問題だといえます。

病院としても、クレジットカードによる決済方法を導入するなど、工夫できる部分もありますが、導入のコストを考えると、踏み切れない病院もあるでしょう。

しかし、本来回収すべき金員である以上、放っておくわけにもいきません。一件一件の回収を弁護士等に依頼するにも、コスト倒れしてしまうケースも考えられます。

また、患者としては、支払方法等について病院側と相談したくてもなかなかそういうわけにもいかず、病院からの通知がきて途方に暮れていることもあるでしょう。

そんなとき、ODRを利用してみてはいかがでしょうか。

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ワンネゴのODRであれば、申立て無料。コストをかけることなく、病院側としては回収を図り、患者側としては支払いのための相談を行うことができます。

未収金をスムーズに回収したい医療機関の皆さま、医療費の支払に悩んでいる患者の皆さまに、ODRが解決の一助となれば幸いです。

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Author Profile

弁護士 榎本愛(大阪弁護士会)
弁護士法人関西法律特許事務所での勤務を経て、弁護士法人新都法律事務所にて執務中。法人・個人を問わず、幅広い分野での交渉・訴訟に対応している。共著「最新 債権管理・回収の手引(新日本法規)」。