データから見る“泣寝入り問題”①養育費トラブル編

弁護士 榎本愛(大阪弁護士会)
弁護士 榎本愛(大阪弁護士会)
2023/08/10

過去のコラムでも、養育費の支払いは長期にわたることもあり、トラブルがおきるケースも少なくないとお伝えしました。では、実際に、我が国ではどれくらいの養育費のトラブル(未払い)が起きているのでしょうか?

今回は、厚生労働省が5年に一度行っている「全国ひとり親世帯等調査」による数字をもとに、養育費トラブルの実態についてお伝えします(※本コラムは、令和3年度の調査結果を基にしています。)。

どれくらいの養育費が発生しているのか?


まず全体として、令和3年度のデータによれば、母子世帯数は119.5万世帯、父子世帯数は14.9万世帯あります(※ここでいう母子世帯とは、父のいない児童が母によって育てられている世帯をいい、父子世帯とは、母のいない児童が父によって育てられている世帯をいいます。ざっくりと、「養育費が必要になりうる世帯」と考えてください。)。

この母子世帯のうち46.7%、父子世帯のうち28.3%が、養育費の取り決めをしているようです。

養育費は双方の合意(取り決め)に基づいて取り決めた金額が支払われるのが原則ですが、こうしてみると全体として半数以上、養育費の取り決めがなされていないことが分かります。

そもそも、日本では年間に約50万組の夫婦が婚姻し、一方で約18万組の夫婦が離婚に至っています(出典:厚生労働省 令和4年(2022)人口動態統計月報年計(概数)の概況)。

養育費は、必ずしも離婚した夫婦間にのみ発生するものではありません。子をもうけたものの婚姻していない男女の間でも発生し得ます。

そして、未婚の場合には、離婚した場合と比べて、養育費の取り決めをしている割合はさらに低くなっているようです(未婚の場合に養育費の取り決めをしている割合は、なんと母子世帯の13.6%父子世帯の0%です)。

また、過去のコラムでもお伝えしたとおり、養育費についての取り決めをしなくても、離婚することは可能です。母子世帯の51.2%、父子世帯の69.0%が、養育費について取り決めをすることなく、離婚しています。

全体として、養育費の取り決めがないケースはとても多いといえますね。

なぜ、養育費の取決めをしていないケースが多いのか?


下のグラフをご覧ください。

(出典:厚生労働省 令和3年度全国ひとり親世帯等調査結果の実数値を基に本記事執筆者が作成。実数値ベースであるため調査結果における推計値とは異なる場合がある。以下の全ての円グラフにおいて同じ。)

上のグラフからわかるとおり、父母いずれにとっても、

・取り決めの交渉がわずらわしい

・相手に支払う意思がないと思った

・相手に支払う能力がないと思った

・相手と関わりたくない

この4つは大きな理由となっているようです。

どれくらいの養育費が支払われていないのか?


まず、養育費の取り決めがあるかどうかに関わらないデータをみていきましょう。

母子世帯において、父親から母親に対する養育費の受給状況は、「現在も受けている」が28.1%にとどまり、56.6%もの母親は「養育費を受けたことがない」と答えています。また、14.4%は「養育費を過去に受けたことがある」と回答しており、ある期間において支払を受けられたとしても、長期間にわたり養育費を貰い続けることは容易ではないという状況が推察されます。

また、父子世帯においては、「現在も養育費を受けている」と回答したのはわずか8.8%となり、85.7%は「養育費を受けたことがない」と回答しています。

 次に、上でみたデータのうち、養育費の取り決めがある世帯についてみていきましょう。

まず母子世帯の母です。このうち、「現在も受けている」と答えたのは57.7%にとどまります。取り決めをしているのに、約半数強しか、きちんと現在にわたっても受けられていないということになります。また、過去に受けたことがあるのは21.8%、受けたことがないのは19%にものぼります。

次に父子世帯の父です。このうち、現在も受けていると答えたのはわずか25.9%にとどまります。また、10.3%が「過去に受けたことがある」とこたえ、「受けたことがない」と回答しているのは60.9%にものぼります。

そもそも養育費の取り決めをすることにハードルがあるうえに、せっかく取り決めができたあとも、その取り決めにしたがって養育費を受ける(受け続ける)ことは、さらに難しくなっていくようです。

しかし、それでも養育費の取り決めをしている世帯の方が全体として受給状況が良いことから、まずは取り決めをすることが出発点といえるでしょう。

養育費をきちんと支払って貰いたい、そんなときは?


これまで見てきたとおり、養育費の取り決めができていなかったり、すでに取り決めができていても支払を受けられていなかったりするケースは、残念ながら少なくないといえるでしょう。

また、まず取り決めをすることが出発点とはいっても、取り決めをするためにもさまざまなハードルがあることはご覧いただいたとおりです。

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Author Profile

弁護士 榎本愛(大阪弁護士会)
弁護士法人関西法律特許事務所での勤務を経て、弁護士法人新都法律事務所にて執務中。法人・個人を問わず、幅広い分野での交渉・訴訟に対応している。共著「最新 債権管理・回収の手引(新日本法規)」。