ODR(オンライン紛争解決)とは?─社会課題「2割司法」を変える、新しい紛争解決のかたち
2026年7月2日
著者: ワンネゴ編集部 監修:冨田 信雄(弁護士・株式会社AtoJ 代表取締役CEO)
「ODR」という言葉を、どこかで聞いたことがある方も、初めて目にする方もいらっしゃると思います。本記事では、ODR(オンライン紛争解決)とは何か、なぜ今この仕組みが求められているのか、そして日本でどこまで実用化が進んでいるのかを、わかりやすく解説します。
ODR(オンライン紛争解決)とは?
ODRとは、裁判によらず、オンライン上の話し合いを通じて法的なトラブルを解決する手段です。
ODRは「Online Dispute Resolution」の略です。「紛争解決」と聞くと少し身構えてしまうかもしれませんが、「法的なトラブルの解決」と言い換えていただいて差し支えありません。当事者が裁判所に行くことなく、オンライン上の対話によって解決に進む。それがODRです。
ODRとADRの違いは?
ADRは対面で行う「裁判によらない紛争解決」、ODRはそれをオンライン・テクノロジーで実現したものです。
ADR(Alternative Dispute Resolution:裁判外紛争解決手続)は、裁判によらずトラブルを解決する仕組みで、日本ではすでに広く存在しています。たとえば交通事故のトラブルを扱うADR、保険など金融商品のトラブルを扱う金融ADR、経営が苦しくなった企業を支える事業再生ADR、個人間のトラブルを扱う民事調停などです。これらを対面ではなく、オンラインで・テクノロジーの力で提供するのがODRだとお考えください。
| ADR(裁判外紛争解決手続) | ODR(オンライン紛争解決) | |
|---|---|---|
| 解決の場 | 対面・リアル空間 | オンライン |
| 代表例 | 交通事故ADR、金融ADR、事業再生ADR、民事調停 | ADRをオンライン化したもの |
| 特徴 | 当事者が場所に足を運ぶ必要がある | 時間・場所の制約を受けにくい |
なぜODRが必要なのか?─「2割司法」という課題
世の中の法的なトラブルのうち、弁護士や裁判にアクセスできているのは約2割にすぎないと言われており、残る8割を救うためにODRが求められています。
「貸したお金が返ってこない」「売掛金が支払われない」といった法的なトラブルのうち、弁護士に相談できたり裁判という司法制度を使えたりしているのは、全体の約2割にとどまるとされています。これは「2割司法」と呼ばれる、司法の世界に長く積み上がってきた課題です。そもそも弁護士につながれない、つながれてもコストが見合わない、裁判となればなおさら─こうした理由で、紛争の8割が司法に届いていないと言われています。
私たち株式会社AtoJは、この「司法へのアクセス(Access to Justice)」を広げることを掲げて創業しました。Access to Justiceは、SDGsの目標16「平和と公正をすべての人に」にも通じる理念です。ODRとは、これまで司法の手が届かなかった"法の空白地帯"に、テクノロジーで新しい解決の場をつくる、社会課題の解決手段でもあるのです。
ODRが解決する「取り残された8割」とは?
養育費、フリーランスの未払い、EC・ドメイン・知的財産のトラブル、航空券の払い戻し、相続、そして少額・大量の未払いなど、これまで司法が届かなかった多様な領域です。
司法にアクセスできていなかった「8割」には、本当にさまざまなトラブルが含まれます。代表的なものを挙げます。
- 養育費に関するトラブル
- フリーランスの報酬未払い
- ECプラットフォーム上のトラブル
- ドメイン・知的財産に関するトラブル
- 航空券の払い戻しなど消費者トラブル
- 相続に関するトラブル
- 少額・大量の未払い(未収金)
ODRは、これらの領域に新たな「司法へのアクセス」を届ける可能性を持っています。
世界の先進事例:eBayのODR
取引規模の大きなオンラインマーケットプレイスで生じる「違う商品が届いた」「代金が支払われない」といったトラブルを、裁判によらずODRで大量に解決しています。
世界的な先進事例として知られるのが、オークションサイトeBayの取り組みです。同サイト上で生じる「違うものが届いた」「代金が支払われない」といったトラブルが、弁護士や裁判所を介すことなくODRを通じて解決されており、その規模は年間数千万件にのぼるとされています。ECプラットフォームという、かつては司法が届かなかった領域に、ODRが新たなアクセスをもたらした好例です。
日本でODRはどこまで進んでいるのか?─AtoJの歩み
AtoJは現役弁護士5名で創業し、3年4ヶ月をかけて法務大臣認証(認証番号第176号)を取得。さらに法務省のODR実証事業にも採択され、国家プロジェクトの一翼を担いました。
ODRは法的な紛争を扱うため、事業として提供するには法務大臣の認証と弁護士の関与が不可欠です。AtoJは、その正規のプロセスを一歩ずつ歩んできました。
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時期 |
できごと |
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2019年3月 |
法務大臣認証に向けた相談を開始 |
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2019年9月 |
内閣府「ODR活性化検討会」でヒアリングに参加 |
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2022年7月 |
法務大臣認証を取得(相談開始から3年4ヶ月) |
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2023年9月 |
法務省のODR実証事業に採択(日本弁護士連合会と共同、プロジェクト「ONE」) |
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2024年3月 |
法務省ODR実証事業が終了 |
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2024年9月 |
対話型ODR「ワンネゴ」を正式リリース |
AtoJが取得した認証は、「裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律」第5条に基づく認証紛争解決事業者(認証番号第176号)です。法務省の国家プロジェクトであるODR実証事業の開発支援実績も有しています。
AtoJが「少額・大量の未払い」から始めた理由
現場で最も切実な課題であり、支払いを求める事業者(債権者)も、支払いを求められる方(債務者)も、ともに苦しんでいた領域だったからです。
ODRをどの領域から届けるべきか。AtoJがたどり着いた答えが、少額で大量の未払いを抱える事業者でした。この未払いは、日本国内で年間1兆円を超えるとも言われています。フィットネスなら月に約100人、不動産なら月に約150人、病院なら月に約200人、自治体なら月に約700人といった規模で、各事業者が抱え続けてきた課題です。
この領域に着目した背景には、創業メンバーの経験があります。法律事務所で全国の公営住宅などの少額債権対応を2万件超にわたって担い、再生弁護士として10年以上にわたり個人・企業の債務者と向き合ってきた経験です。そこで確信したのは、支払っていない方の多くは悪意のある人ではなく、それぞれに事情を抱えているだけだということ。そして、その間に適切に入る仕組みがこれまで存在しなかった、ということでした。
対話型ODR「ワンネゴ」とは?
ワンネゴは、中立公正な法務大臣認証機関として債権者と債務者の間に入り、申立てから対話、支払いまでをオンラインで完結させる対話型ODRサービスです。
ワンネゴ(OneNegotiation)は、少額・大量の未払いの解決に特化した、弁護士が開発した対話型ODRプラットフォームです。支払いを求める事業者からの申立てを受け付け、相手方へ「申立通知」を寄り添う形でお届けし、オンライン上の対話を通じて、選べる解決策へとつなげます。支払いから事業者への送金まで、すべてオンラインで完結します。
少額・大量の未払い(未収金)がなぜ毎月発生するのか、その構造と具体的な解決法については、「未収金はなぜ毎月発生するのか?」もあわせてご覧ください。
AtoJは「法の安心を、世界中の手のひらに。」をビジョンに掲げ、Access to Justiceの理念の実現を目指しています。
ODRやワンネゴについてより詳しく知りたい方へ。
解説ウェビナー動画と資料をご用意しています。
よくある質問
ODR(オンライン紛争解決)とは何ですか?
ODRとは「Online Dispute Resolution」の略で、裁判によらず、オンライン上の話し合いを通じて法的なトラブルを解決する手段です。
ODRとADRの違いは何ですか?
ADR(裁判外紛争解決手続)は対面で行う紛争解決の仕組みで、ODRはそれをオンライン・テクノロジーで実現したものです。交通事故ADRや金融ADRなどがオンライン化されたものとお考えください。
「2割司法」とは何ですか?
法的なトラブルのうち、弁護士や裁判といった司法制度にアクセスできているのは約2割にすぎないと言われる課題を指します。残る8割は、コストやアクセスの壁によって司法に届いていないとされています。
ODRは誰でも事業として提供できますか?
いいえ。ODRは法的な紛争を扱うため、事業として提供するには法務大臣の認証と弁護士の関与が必要です。AtoJは認証紛争解決事業者(認証番号第176号)として認証を取得しています。
ワンネゴはどのようなトラブルに使えますか?
少額で大量に発生する未払い(未収金)の解決に特化しています。フィットネス、不動産、医療・介護、自治体など、継続課金や定期的な支払いが発生する事業で広く活用されています。
ワンネゴ編集部 監修:冨田 信雄(弁護士・株式会社AtoJ 代表取締役CEO)
弁護士として2万件を超える少額債権対応の現場に従事。そこで直面したのは、少額ゆえに費用対効果が合わず、法的解決が放棄される「法の空白地帯」。同時に、大量処理が求められる現場では一方的な督促が常態化して担当者は疲弊。債務者側の事情にも一切目が向けられず、債権者と債務者の間に深いコミュニケーションのズレが生じている実態であった。 この構造的な課題を解決するため、2020年に株式会社AtoJを共同創業。「法の安心を世界中の手のひらに」を掲げ、少額大量債権特化の対話型ODR「OneNegotiation(ワンネゴ)」を開発。テクノロジーとデザインにより、低コストで双方の「対話」を回復させ、解決件数1万件を突破する中で、平均50%を超える解決率を実現。法とテクノロジーの融合で、新たな社会インフラの構築に挑んでいる。