対話型ODRとは? — 督促でも裁判でもない、少額未払いの「話し合い型」オンライン解決
2026年5月21日
著者: ワンネゴ編集部 監修:山口聡子(弁護士)
対話型ODRとは、当事者がオンライン上で話し合い、合意による解決を目指す紛争解決手続のことです。日本では2022年以降、ADR法第5条に基づく法務大臣認証を受けた事業者が提供する形で広がっています。
こんな経験はないでしょうか。
月会費や利用料の未払いが発生して、リマインドのメールを何度も送っている。でも返事が返ってこない。電話しても出ない。かといって、数千円〜数万円の金額のために弁護士に依頼して裁判を起こすのは、時間もコストも見合わない。
結果として「この未払い分は諦めよう」という判断をしてきた事業者は少なくありません。
こうした「督促しても無視される」、「裁判するほどではない」という少額の未払い金に対して、いま注目されているのが 対話型ODR という仕組みです。ODRとは Online Dispute Resolution(オンライン紛争解決)の略で、ざっくり言えば「トラブルの解決をオンライン上で進められる仕組み」のこと、対話型ODRはその中でも「話し合いによる解決」を中心に据えたタイプのものです。
本稿では、この対話型ODRについて、仕組み・特徴・向いている場面を、できるだけ専門用語を避けて整理します。
対話型ODRとは — 「話し合いの場」 をオンラインに載せた仕組み
一言でいうと、対話型ODRは 「当事者同士がオンライン上で話し合って、未払いなどのトラブルを解決する仕組み」 です。
身近なイメージに置き換えると、チャットやメッセージアプリで相手と条件を話し合って、合意点を見つける — それをきちんとしたルールと手順の上でできるようにしたもの、と考えてもらえればおおむね合っています。
特徴は大きく3つあります。
- 「どちらが正しいか」の白黒をつけるのではなく、「お互いが受け入れられる落としどころ」を探す
- 裁判のような大がかりな手続きではなく、インターネット上で進められる手軽さ
- 国が認めた事業者が提供する場合、一定の条件のもとで時効の成立が先延ばしになるなどの法的効果を持つ
「裁判をオンラインでやるもの」とも、「自動で督促してくれるツール」とも、別物です。
自社督促・裁判・対話型ODRの違いを比較する
少額の未払いに向き合うとき、事業者が取りうる選択肢は大きく3つあります。それぞれが得意なこと・不得意なことを並べてみましょう。
|
観点 |
自社督促(メール・電話) |
裁判 |
対話型ODR |
|---|---|---|---|
|
向く相手 |
払い忘れ・うっかり層 |
明確に支払いを拒んでいる相手 |
事情や不満を抱えている相手、相談したい相手 |
|
コスト |
社内の工数(人件費) |
弁護士費用+訴訟費用で数十万円〜 |
少額から始められる/成功報酬型もある |
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スピード |
早い。ただし届かなければ意味がない |
数ヶ月〜1年以上 |
比較的速い(オンラインで完結) |
|
顧客関係 |
督促し続けると悪化しやすい |
基本的に関係は断たれる |
関係を維持したまま解決できる可能性 |
|
向く金額 |
全般 |
数十万円以上が現実的 |
少額帯(〜300万円前後)と相性がよい |
自社督促は「払い忘れ層」にはとてもよく効きます。しかし、「事情があって払えない」「サービスに不満がある」「相談したい」といった相手には、どれだけ通知を送っても響きません。一方で、そのために裁判を起こすのは、金額的にも時間的にも現実的ではありません。
「督促では響かない、でも裁判は大がかりすぎる」——ちょうどその間に入るのが、対話型ODRの立ち位置です。
なぜ「話し合い」の形だと、少額未払いの相手に効くのか
少額の未払いが発生している相手を分解すると、大きく2つの層に分かれます。
① うっかり・払い忘れ層
クレジットカードの期限切れ、引き落とし口座の残高不足、メールを見落としていた、など。気づけばすぐ払ってくれるタイプです。
→ 通知の工夫で解決するケースが多く、督促ツールや督促業務の設計で対応可能です。
② 事情あり層
経済的に厳しくて一括では払えない、退会・解約したつもりになっていた、サービスに不満があって払う気になれない、気まずくて連絡を返せなくなっている、など。
→ どの方にも、一方的に督促をするだけでは動きません。
問題は、督促だけで押し続けると、①だけが反応して、②は沈黙したまま残り続けることです。結果、②が「解決不能案件」として積み上がり、放置・諦めの対象になっていきます。
対話型ODRは、この②層に対して有効に働きます。オンライン上で、
- 支払い方法を選ぶことができる(分割、期日調整など)
- 事情を伝えられる
- 事業者側の提案を確認できる
という話し合える場が用意されているので、②層の人も動き出しやすくなります。実際に、未払い金を受け取った側からは「連絡が来ればすぐ対応した」「事情を聞いてくれればよかった」という声も一定数確認されています(※当社実施の実態調査より)。
世界と日本のODRが進んできた道
少しだけ背景の話を。
ODRそのものは1990年代の米国で生まれ、eBayやPayPalなどが大量のeコマース・トラブルを処理する仕組みとして発展させてきました。その流れは、どちらかというと「裁判プロセスのオンライン化・自動化」が中心です。英国のMoney Claim Online(小額訴訟のオンライン版)や、中国のインターネット法院などもその代表例です。
一方、日本のODRは少し違う方向で整備が進んできました。日本にはもともと、裁判よりも「話し合いで解決する」文化的な土壌があり(民事調停、簡易裁判所の和解など)、これをオンライン化する方向性が議論されてきたのです。
おおまかな流れはこんな具合です。
- 2019年:内閣府ODR活性化検討会がスタート
- 2022年:ADR法に基づく法務大臣認証のODR事業者が登場
- 2023年:法務省ODR実証事業(プロダクト "ONE")
こうした流れの中で、日本では「対話型ODR」が主流として広がってきました。
対話型ODRの代表的なサービス — ワンネゴ
日本で対話型ODRを提供しているプラットフォームの一つに、ワンネゴ(OneNegotiation) があります。提供元は株式会社AtoJ。共同創業者/弁護士・CEOの冨田信雄氏は、再生弁護士として10年超・2万件を超える少額未払いの現場に向き合ってきた実務家です。
事業者目線でワンネゴの特徴を整理すると、こうなります。
- 法務大臣認証(認証番号第176号)の正式な事業者 — 一定の条件のもとで、時効の成立を先延ばしにすることができる
- 裁判でも、自社督促でもない第三の選択肢 — 自社督促では届かなかった相手にも届く
- 平均値として50%超の解決実績 — 放置していた未払いから実際に解決に至るケースが半数超
- 自社通知(督促)後の管理業務は90%削減されうる — 申立て後の進行はオンラインでほぼ自動化
- トライアルは申立手数料無料(成功報酬は含みません) — まず試してみるハードルが低い
- 月会費・利用料など継続課金型サービスに強い — フィットネス、学習塾、美容、医療・介護自費診療、通信、ECなど
「督促しても返事が返ってこない」「かといって諦めたくない」—そんな場面で、対話型ODR、そしてワンネゴのようなサービスが、これからの現実的な選択肢になります。
よくある質問
Q. 対話型ODRとは、一言で言うと何ですか?
オンライン上で当事者同士が話し合い、合意による解決を目指す仕組みです。裁判のように白黒をつけるのではなく、「お互いが受け入れられる落としどころを探る」ことを支援します。
Q. 自社の督促メールや電話と、対話型ODRは何が違うのですか?
督促は「払ってください」という一方通行の通知です。対話型ODRは、相手側も事情を伝えたり支払い条件を相談したりできる、双方向の場が用意されています。「払い忘れ層」だけでなく「事情あり層」にも対応できるのが大きな違いです。
Q. 裁判とは何が違うのですか?
裁判は「どちらが正しいか」を決める手続きで、時間もコストもかかります。対話型ODRは、裁判に至らない段階でオンライン上の合意を目指すもので、コスト・期間ともに裁判より抑えられます。株式会社AtoJのような法務大臣認証の事業者が提供するものは、一定の条件のもとで時効の成立が先延ばしになる等の法的効果を持ち得ます。
Q. 「少額」とは、いくらぐらいのことですか?
明確な法的定義はありませんが、実務上は 300万円以下 くらいが「少額」と呼ばれる傾向があります。この金額帯は、弁護士費用や訴訟費用が回収額を上回りがちなため、従来は諦められやすかったゾーンです。対話型ODRはこのゾーンと相性のよい仕組みです。
Q. どんな事業に向いていますか?
月会費・利用料・継続課金型のサブスクリプションサービス(フィットネスクラブ、オンラインスクール、学習塾、美容サロン、通信、医療・介護の自費診療など)や、フリーランス報酬、少額のBtoB取引などに向いています。
Q. 「日本版ODR」と「対話型ODR」は同じ意味ですか?
密には違います。「日本版ODR」は日本の政策的な動き全体を指す呼び方で、その中で対話型の取り組みが中心になっているため、両者が近く扱われることが多い、という関係です。
Q. まず何から試せばよいですか?
対話型ODRサービスは、申立手数料無料のトライアル枠や、料金シミュレーターを用意しています。抱えている未払いデータを当てはめて、回収見込みと費用感をまず見てみるところから始めるのが現実的です。
ワンネゴ編集部 監修:山口聡子(弁護士)
弁護士法人淀屋橋・山上合同所属。企業法務・ベンチャー支援法務・渉外業務等をメインを行う。